プロ野球のキャンプが始まり、野球の虫がウズウズと疼きだしてしまった人もいるはずだ。寒さが一段落すれば、草野球に汗を流す人の姿が見られるようにもなるが、草野球の観戦中にボールが頭を直撃してしまった場合、チームに責任を求めることはできるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
市営球場の3塁側スタンドで、商店街のチーム同士の草野球を観戦中にファウルボールが子供の頭を直撃、コブができました。即座にクレームを付けると、両監督ともプロ野球ならともかく、草野球の場合は観戦者の自己責任であり、治療費は払えないといわれました。本当にそうなのでしょうか。
【回答】
素人が狙った場所に、ファウルを打てるわけはないので、打者が故意にぶつけたということは考えられません。過失があれば、不法行為ですが、投手は打ちにくい球を投げるのであり、ファウルしても、それは技量であって、過失とはいえません。ましてヒットを打つ気でファウルになっても同様で、打者に責任追及は困難です。
次に、試合の主催者の責任ですが、観覧料タダの草野球では、主催者と観客の間には契約関係はなく、過失に基づく不法行為がない限り、責任はありません。仮に、観客の安全を配慮する義務があるとしても、野球はスタンドにボールが飛び込むこともあるスポーツ。観客はそのことを承知で観戦しているので、打球事故に責任があるとはいえません。
しかし、球場の種類によっては、設備が問題になる余地があります。球場は土地の工作物で、その設置、または保存の瑕疵(かし)が原因で他人に損害を与えると、まずはその占有者(この場合は試合の主催者)が責任を負い、占有者が事故防止に必要な注意をしていたときには、所有者(この場合は市)が、その損害の賠償責任を負います。
この「瑕疵」とは、通常備えておくべき安全性がないことをいいます。河川敷や公園などのグラウンドでは、こうした設備はなくても、瑕疵ではないと思いますが、多くの観客が有料で来場するような球場では、ファウルボールのスタンドへの飛び込みを防ぐフェンスがないと、瑕疵になる可能性があります。
内野席フェンスの高さについて民間の団体が一定の基準を定めています。これを満たせば、一般的な安全性があり、責任追及は困難です。
野球の観戦は楽しい娯楽ですが、バックネット裏でない限り、草野球でも危険をともなうことが多く、打球の行方には観客自身が注意しなくてはいけないでしょう。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年3月6日号