日本では「コレステロールは体に悪い」というのが“常識”になっている。
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(2010年)では、血液中の総コレステロールは男女とも増加しており、脂質異常症(血中にコレステロールや中性脂肪が多すぎる病気)と疑われる人の割合が増えていると指摘。2006年の同調査では約4220万人、日本人の3人に1人が脂質異常症を疑われると推計していた。
専門医からなる日本動脈硬化学会は、脂質異常症の人に対して食事療法を推奨。同学会がまとめた「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」(2012年版)では、食事からのコレステロール摂取を「1日200mg以下」に制限している。
この摂取制限は非常に厳しい。鶏卵1個(コレステロール含有量252mg)、鶏レバー1人前60g(同222mg)でもアウトとなる。2007年版の同ガイドラインでは基準は1日300mg(治療初期の場合)までOKだったから、この数年で大幅に厳格化が進んだことになる。
だが、日本での厳格化の流れを真っ向から否定する見解がアメリカで示された。「食事からのコレステロール摂取を制限しても意味がない」というのである。
2月19日、米厚生省と農務省が5年ごとに改訂する「米国人のための食生活ガイドライン」作成に向けた栄養、医療、公衆衛生の専門家からなる諮問委員会の報告書が公表され、「コレステロールは過剰摂取を懸念すべき栄養素とは見なさない」との見解が明らかになった。
これにより、現行の米ガイドラインで「1日300mg」までとされていた制限基準は削除される見込みとなった。正式決定は3月下旬の予定だ。
しかも同委員会は報告書に「食事によるコレステロールの摂取と血清コレステロール値の間に特段の因果関係がないことが実証されている」と明記した。
近年の研究では、卵の摂取量と動脈硬化の発症率に連関がないとするものが複数あり、日本人を研究対象とした追跡調査もある。日本脂質栄養学会理事の浜崎智仁氏(富山大学名誉教授)はこういう。
「卵を過剰に、たとえば1日10個食べた場合、満腹になってしまって他の必要な栄養素を摂取できなくなり、健康に悪影響が出る可能性はあります。ただ、コレステロールを摂りすぎたこと自体が原因で病気の罹患率が上がるというデータはありません」
昨年、厚労省が設定する〈日本人の食事摂取基準〉の5年に一度の改定が行なわれ、実はそこでもコレステロール摂取の目標値は削除された。
にもかかわらず日本の専門医の学会だけが、摂取制限を維持している。その理由を動脈硬化学会に問うたが、「ガイドラインを精読してください」という木で鼻をくくったような答えしか得られなかった。
「理由は説明しない。何も考えずに我々の出した基準に従っていればいい」といわんばかりの対応だ。
※週刊ポスト2015年3月13日号