今、“トラガール”と呼ばれる女性のトラックドライバーに注目が集まっている。国土交通省自動車局の担当者は語る。
「ドライバーの高齢化が進み、トラック業界における人材不足は深刻な状況です。人員構成を見ると、中高齢層の男性が圧倒的に多い。女性はわずか2.4%で、数にすると約2万人と他の職種に比べるとあまりにも少ない。
ただ、女性の大型免許取得者は全国で13万人以上います。この中には潜在的にドライバーになりたいと思っているかたはいるはずです。そうした女性に光を当ててドライバーを増やすべく、促進活動を進めています」
国交省では2020年までにトラガールを4万人に増やすことを目標としており、女性ドライバーが働きやすい環境作りに力を入れている。しかしながら、トラック業界はまだまだ男社会。そこで働くトラガールを追った。
朝7時、始業のベルが鳴ると同時にラジオ体操をして、上原淳子さん(38才)の一日が始まる。カメラを向けると、「淳子、こっちに寄るなよぉ」と周囲の男性ドライバーがからかう。和やかな雰囲気だ。
淳子さんが勤めるのは、新潟県にある巻運送。4tの冷凍トラックに菓子製品や原料を積み、製菓会社の工場を行き来する。
「荷物の積み下ろしをしながら、1日、150~200kmくらい走ります。重いものだとひと箱20~25kgの荷物もあって、すべて下ろし終わると『やっと終わった!』と、ホッとします」(上原さん・以下「」内同)
定時は17時50分。そこで終わることもあれば、2~3時間残業することもある。
「朝は4時に起きます。20才と17才の息子と自分のお弁当を作り、家を出るのは6時半。余裕がある時は前日から仕込みますし、今日は、昨日の夕飯の残りの天ぷらを入れました。他には醤油漬けの焼き魚や卵焼き、もやしナムル、漬物を入れてきました」
担当は主に県内輸送だが、時には他県へも遠征する。
「昨日は朝3時に出勤して金沢まで走りました。県外へ行く時には、前の晩に息子が『これ持って行って』とハンバーガーを買ってきてくれます」
もとは実家の農業を手伝っていたが、夫と離婚した10年前にトラック業界に飛び込んだ。
「トラクターなど農耕車の大型特殊免許と一緒に大型免許も取ったので、資格を生かせる仕事に就きたいと思ったんです。新潟は雪が多くて運転には危険というイメージがある。体力的にも女性に務まるのかと随分心配されましたが、『とりあえずやってみたい』と押し切りました」
今では、「大きい車に乗るのはかっこいい」と、息子たちも応援してくれている。
「週6日働いて、お休みの日曜日も1週間分の食材の買い物や掃除などの家事をしていたら、あっという間に終わってしまう。正直、『あぁ、ずっと寝ていたい』と思うこともあります。仕事と家事を両立できるのは、家族の協力があってこそ。息子たちはゴミ出しやお風呂掃除、米とぎに始まり、私が疲れていたら洗濯をして積極的に家事を手伝ってくれる。下の子が中学生の頃に、『家に帰ってきて、灯りがついてないのはさみしいな』と、言われた時には『そうだよねぇ』と言葉に詰まりましたが…。でもその分、家に帰ったら家族全員でにぎやかに過ごします」
葛藤もあったのだが、そこは“一家の大黒柱”として迷いを捨てた。
「仕事中に子供が体調を崩すこともありましたが、そこは仕事なのできっちりと線引きをして。『仕事は仕事、母さんは稼ぐよ』と、息子にもいいきかせました。ウチは母子家庭なので、私が稼がないといけないですから」
巻運送では1980年から女性を採用し、現在も14人のトラガールが活躍している。
「最近は女性が増え、『今日の夕飯は何作るの?』といった主婦の会話ができて楽しい。納品先などで男女共用のトイレを使う不便さなどはありますが、女性だからと納品先で気遣ってもらい、職場の仲間も言葉は乱暴だけど(笑い)、やさしい人ばかり。環境がいいので他の職場を考えたことはありません。できる限りここで働き続けたいです」
※女性セブン2015年3月26日号