「今日で過去の自分と決別します!」と、悔しそうに大盤を指すのは3月8日に放送された『NHK杯テレビ将棋トーナメント』で「二歩」の反則で敗退した橋本崇載(たかのり)八段(32)だ。
珍事は準決勝の行方尚史(なめかた・ひさし)八段(41)との大一番で起きた。中盤から終盤にさしかかる92手目のことだった。持ち時間を使いきり50秒…6、7、8と秒読みされる中での「二歩」。トッププロには珍しいまさかのミスである。
「序中盤にかけて凡ミスが続き、行方八段優勢で差がついたところでした。踏みとどまらなければ敗戦濃厚という場面。必死に究極の一手を探しましたが打つ手がない。相当焦っている中でのとっさの判断でした」(橋本八段)
相手の行方八段が「アッ」と声を上げると、少しして気づいた橋本八段も頭を抱えた。瞬間の重苦しい状況はテレビでも映し出されてしまった。
「頭が真っ白になりその後の感想戦も、どう帰ったのかも覚えていません」
同杯で初めての準決勝出場。優勝したいという気合いが気負いとなり空回りしていたと、敗因を振り返る。
「優勝の夢も絶たれ、賞金も失って、結構ツライものがありましたけど、鉄の精神力を得ました(笑い)。今後の目標ですか? もちろんNHK杯で優勝。絶対に借りを返してやります!」
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2015年3月27日号