12才でプロデビューを果たし、日本を代表するヴァイオリニストの一人となった千住真理子。メディアから天才少女と騒がれた彼女の絶望、そして復帰。名器ストラディヴァリウス・デュランティとの運命的な出合いを経て、今年、デビュー40周年を迎えた。
長兄・博は日本画家、次兄・明は作曲家。芸術一家として名高い千住三兄妹の末娘でヴァイオリニストの千住真理子の行動は、とにかく疾い。演奏が終わった次の瞬間にはサイン会の椅子に座りお客さんを待ち構え、「お疲れ様でした」と言う言葉と同時に、もう、ヴァイオリンケースとバッグを抱えている。
「われながらどうしたものかと思うんですけど、とにかくせっかちなんですよね(苦笑)。起きてから寝るまでずっと走り回っていて。これは千住家の特徴ですね(笑い)」(真理子・以下「」内同)
12才でプロデビューし、メディアからは、天才少女として騒がれた。しかし、騒がれれば騒がれるほど、ヴァイオリニストとしての自分に疑問を感じ、20才の夏…自ら、音のない世界に自分を閉じ込めた。
「大好きだったバッハすら弾けなくなって。暗黒の時期でしたね。人と話をするのも嫌で、部屋に閉じこもって。人生すべてに絶望して、死ぬことを考えたりしていました。今でもときどき夢の中に、あの頃の自分が現れることがあるんです」
もがき苦しむヴァイオリニストに、神様がラストチャンスを与えてくれたのは、それから2年後。末期がんのためホスピスに入院していたファンから、ヴァイオリンを弾いてほしいと切望されたことだった。
「全然練習していないので、体は震えるし音程も取れない。それはひどい演奏でした。でもそのかたは、目にいっぱい涙をためて、“ありがとう”と言って笑ってくださったんです。それが、やり切れなくて、情けなくて……そのときです、天才じゃなくてもいい、聴いてくださるかたの心に届くような演奏家になりたいと思ったのは。これからは、一音一音に祈りを込めて、自分なりに精一杯の演奏をしようと覚悟を決めた瞬間でした」
自信と輝きを取り戻した彼女を、神様は見ていた。数億円で取引されるという幻のヴァイオリン・ストラディヴァリウスのデュランティとの出合いだ。前の所有者が手放し、演奏家としてプロでやっていく等の条件をクリアした彼女の元へやってきたのだ。この運命の出合いが、演奏家・千住の人生を決定づけた。
「デュランティは、夢であり、憧れであり、私のすべて。最近になって、ようやく話し相手になってくれたこの名器にどれくらい近づけるのか…それが私の人生、最大のテーマです」
今年はデビュー40周年。心身ともに充実した今がいちばん、輝いている。
撮影■浅野剛
※女性セブン2015年4月2日号