新年度を迎え資格を取ってキャリアアップをと考える人は多い。転職や出世に有利だと考えられる「国家資格」だが、欲しがる者がいれば利権にもなる。シロアリ官僚たちは天下りポストと指導権限を操ってきた。当然、資格を取るには試験を受ける必要があるが、たとえば宅建の場合は、一般財団法人・不動産適正取引推進機構に対し、受験生は7000円を支払う。2013年度の場合は、23万8000人が受験したため、試験事業収益は16億4000万円だ。その利権は、安倍政権になってさらに広がりつつある。
そのため新しい資格が次々と作られていく。近年では登録販売者(2008年、厚労省)、貸金業務取扱主任者(2009年、金融庁)、防災管理者(2009年、総務省)、土壌汚染調査技術管理者(2010年、環境省)などが生まれた。
もともと民間資格だったものを社会的関心の高まりを利用して国家資格にしていくこともある。2004年に民間資格として立ち上げられた知的財産管理技能検定は、2008年に国家資格の「知的財産管理技能士」へと“昇格”した。
2002年に知的財産基本法が制定されて企業の発明、意匠、著作物の保護が注目されて生まれた資格で、実施団体の知的財産教育協会の会長は元通産事務次官。しっかり官僚利権に組み込まれている(同協会は「知的財産管理技能士の管轄は厚生労働省で、理事長は通産省OBだから直接の天下りとはいえない」と回答)。
同様の“昇格候補”は数多くある。2012年4月から中学校でダンスが必修科目となり、「ヒップホップダンス基本技能指導士」なる民間資格が生まれた。ダンス指導者の育成を目的とした試験で、厚生労働省認可の財団法人である職業技能振興会が実施団体となっている。
現状では天下りはおらず補助金も受け取っていないが、同振興会は本誌取材に「国家資格となればいいと思っている」と答えた。そうなれば当然役所の影響力が強まってくるだろう。
2009年に発足した消費者庁は「自前の資格利権が欲しい」とばかりに来年度から消費生活相談員の国家資格試験化を進め(試験実施団体は国民生活センターなどになる見込み)、福島第一原発事故で除染がビジネスになるとみると自民党内では除染業務や放射線量測定業務の国家資格「放射線取扱業務士」を創設する法案が検討された。
新しい役所ができたり、世間で問題となる事件が起きたりすると、「新しい資格が必要」という議論を持ち出すシロアリ官僚の手法がよくわかる。
※週刊ポスト2015年4月3日号