中国が主導する新たな国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の発足に向けた準備が大詰めを迎えている。
中国は3月末までに創設メンバーとなる国の参加表明を締め切り、6月末までに各国の出資比率などの協定を結んで今年中の運用開始を目指している。創設メンバーは組織や業務運営の枠組み作りに関与できるメリットがある。
AIIBの目的は、アジア諸国のインフラ整備やそれを通じた各国間の連携を強化して経済発展を支援するというもの。それに対し、すでにアジア開発銀行(ADB)を主導する日本は今のところ参加しない方針だ。
ただし日本の立場は苦しい。AIIB構想は中国の習近平・国家主席が2013年の東南アジア歴訪時に発表したもので、2014年10月には北京で中国とASEAN全10か国に加え、中国とは国境紛争で対立するインドなど計21か国が設立に向けた政府間覚書に署名した。その後も参加国が増え、今年3月12日にはイギリス、17日にはドイツ、フランス、イタリアといったEU諸国が参加表明。さらに韓国が参加を表明した。
アメリカはG7の中で真っ先に参加を決めたイギリスに激怒。英紙フィナンシャル・タイムズは米政府高官のこんなコメントを掲載した。
「事実上、(イギリスから)アメリカに相談はなかった」
日本はいつも通りのアメリカ追従だ。麻生太郎・財務相は13日の会見で「こういうのに参加する時には、重要だとわれわれが思っているようなものをクリアしてもらわないと、なかなか難しい」と、投資先の決め方などに不透明な点があることを指摘して参加に否定的な見解を示した。
AIIBを主導する中国の狙いについて、第一生命経済研究所の西濱徹・主任エコノミストが解説する。
「中国経済はいま、過剰生産・過剰在庫の問題を抱えている。共産党政府は生産能力の削減を進めているが、それが雇用減少につながることが新たな社会問題を招くと警戒しています。
打開への早道は輸出拡大で、AIIBはそのために構想された。今後の経済成長が見込まれる地域に触手を伸ばす新たなツールを作ろうとしているのです」
さらに、上武大学ビジネス情報学部教授の田中秀臣氏はこう指摘する。
「アジア全域では毎年7500億ドル(約90兆円)にのぼるインフラ需要があるといわれている。それを取り込む狙いです。AIIBは本部を北京に置き、総裁も中国人が想定されています。また、中国は最大の出資国となる見込みで、大きな発言権を握ることになります」
日本がアメリカに大幅譲歩して進めているTPP(環太平洋経済連携協定)による「中国囲い込み」は粉砕され、逆に中国の勢力が増して日本が包囲される事態を迎えつつある。
※週刊ポスト2015年4月10日号