日々刻一刻と変化する為替相場。世界では変動相場制を採用する通貨が主流だが、中央銀行の介入によって事実上の固定相場制を採用する通貨もある。そうした中で今年1月15日に起こったのが対ユーロでのスイスフラン相場の急変だ。そこから読み取れる為替の教訓について、かつて米証券会社ソロモン・ブラザーズの高収益部門で活躍した赤城盾氏が解説する。
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峻厳な国境に守られ、永世中立と銀行員の守秘義務の堅持を国是に掲げるスイスは、200年来、世界中から、とりわけ、地続きの欧州諸国から、危機に瀕した富の逃避する地であった。
今風にいえば、スイスフランと日本円は、世界の外為市場における二大リスクオフ通貨である。2008年のリーマン・ショックに続いて2010年から深刻化した欧州金融危機は、当然、スイスフランのユーロに対する急騰を招いた。
1年半あまりの間に1ユーロに対して1.5近辺から1に近いところまで進んだスイスフラン高は、私たちにとっての円高と同様に、輸出と観光に頼って生計を立てる800万スイス国民の経済を危うくした。そこで、スイス中銀は、2011年9月、1ユーロに対して1・2スイスフランを上限に、無制限の為替介入を行なうと宣言したのであった。
それから3年あまり、欧州金融危機は沈静化に向かい、スイスフラン/ユーロ相場は、概ねその上限値に張り付く固定相場の様相を呈していた。
ところが、今年に入り、ロシアの経済危機とギリシャの政情不安に加えて、ECB(欧州中央銀行)の量的緩和が必至という観測がとどめとなって、スイス中銀は上限レートを維持する自信を失った。1月15日、まったく唐突にその撤廃を表明したのである。
その日のスイスフラン相場の大混乱については、まだ記憶に新しいであろうから、敢えて詳しくは述べない。
この一件が私たちに与えた教訓は、先ず、自由な為替取引を認める変動相場制の下で、相対的に経済規模の小さいほうの政府が為替レートを誘導することは難しいということであろう。すなわち、もしアメリカ経済が失速、停滞すれば、黒田東彦日銀総裁の意図は通らず、異次元緩和がもたらした円安株高は転機を迎えるかもしれない。
※マネーポスト2015年春号