ドイツのLCC(格安航空会社)・ジャーマンウイングス社の航空機墜落から2週間が過ぎた。3月24日、フランス南東部のアルプス山脈に墜落した機体は原形をとどめず、乗客乗員合わせた全150人が死亡した。
墜落は、アンドレアス・ルビッツ副操縦士(27)によって意図的に起こされたものという見方が強まっている。すでに世界中のメディアは、副操縦士の精神疾患が「墜落の原因」だと半ば断定的に報じている。
ジャーマンウイングス社の親会社であるルフトハンザ航空は、2009年頃に数か月間、当時訓練中だったこの副操縦士に精神疾患が認められ、訓練を中断していたことを明らかにした。病名は明らかにされていないが、各メディアは「重度のうつ病」だったと伝えている。
これらの報道は、パイロットの精神疾患こそが悲劇を引き起こした元凶だと指し示している。しかしこの150人を道連れにした悲劇の原因を「うつ病」のみに求めることに専門家からは疑問が上がっている。
現代社会においてうつ病患者は増加の一途であり、日本では約104万人(2008年の厚労省調査)の患者がいるといわれる。100人に1人の国民が、この病気に悩まされているのだ。家族や身近な人に患者がいた経験を持つ人も多いだろう。
しかし彼らうつ病患者の多くは、このドイツ人パイロットのように怒りを外に向け、「無差別大量殺人」を起こしたりしない。どちらかといえば「自分なんか生きていてもしかたがない」「周りに迷惑をかけてしまうだけだ」と、自己嫌悪を持つケースが多いことが知られている。だから自殺との関連は強い。ただし内省的な傾向と多くの無関係な人々を巻き込む今回の墜落を、自殺衝動というくくりで同一視することは危険だ。
精神科医などの専門家も、「現時点で十分な判断材料があるとはいえない」としつつ、異口同音に「副操縦士をうつ病と安易に決めつけ、うつ病が故意の墜落を引き起こしたと考えるのは医学的に間違っている」と異義を唱えた。
※週刊ポスト2015年4月17日号