日本人が“常識”だと考える健康情報には往々にして間違いがある。本誌は日本の学会が固執する「コレステロールは危険」という考えが最新研究で否定されていることをレポートしてきた。似通った構図が、日本人の国民病といわれる「糖尿病」にもある。
1970年代には約200万人と推計されていた糖尿病患者は増え続け、2012年には約950万人となった。予備群を含めると2000万人超とされる。
糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンの異常により、血液中の糖(血糖)が高くなる病気だ。日本人の糖尿病の95%を占める2型糖尿病では、血糖をエネルギーに変えるインスリンの機能が弱くなり血糖値を正常に戻せなくなる。
糖尿病で何より怖いのは高血糖が続くことによって起きる合併症だ。代表的なものでは失明の恐れがある「網膜症」、発症すれば週に数回の人工透析が必要になる「腎症」などがあり、狭心症や心筋梗塞、脳血管障害も起こりやすくなる。血糖値はとくに食後に急上昇するため、糖尿病患者には厳しい食事制限が課される。
その食事療法を行なう際に日本で“常識”とされるのが「カロリー制限」だ。日本糖尿病学会は『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013』でカロリー制限を採用する。身長やその人の普段の仕事内容に応じて1日の摂取カロリーを定めるやり方だ。東海大学名誉教授の大櫛陽一・大櫛医学情報研究所所長が解説する。
「身長から導き出される標準体重に、仕事内容ごとに設定された身体活動量を乗じて『摂取エネルギー量(1日に摂取する総カロリー)』を算出します。たとえば立ち仕事が多い身長178センチの人なら、摂取エネルギー量は約2091キロカロリーとなります。その上でガイドラインでは総カロリーのうち50~60%を炭水化物(糖質)から摂取するようにも勧めています。これに従うと毎食おにぎり2個分強(約200グラム)の炭水化物を摂る計算になります」
日本の権威ある学会はカロリーを厳密に制限した上で、その半分以上を炭水化物から摂るよう指導しているのである。 ところが、このやり方は世界の潮流からは全く外れている。大櫛氏が続ける。
「2004年、米国糖尿病学会は公式見解として『カロリーを含有する炭水化物、たんぱく質、脂肪のうち、炭水化物だけが血糖値を上昇させる』と発表し、医療者向けのテキスト(Life with Diabetes)の記述を書き換えました。つまり、血糖値を抑える上で日本の学会のガイドラインにある『総カロリー制限』は意味がなく、本当は炭水化物(糖質)の摂取量だけを問題にすべきだということです」
※週刊ポスト2015年4月17日号