群馬大学医学部附属病院で肝臓の腹腔鏡(ふくくうきょう)手術を受けた患者が過去5年間で8人死亡し、その「調査最終報告」が発表された。この8例すべてに関わっていた40代助教のS医師は2010年に腹腔鏡手術を始めている。ベストセラー『がんばらない』著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏が、この医療過誤について検証する。
* * *
手術を行なった第二外科は、心臓の手術をする循環器外科と肺がんなどの手術をする呼吸器外科、乳がんや甲状腺がんを手術する乳腺・内分泌外科、そしてS医師が所属する消化器外科などが混在している。
いまや医学の進歩のスピードはとても速く、同時に専門化が進んでいる。乳がんの専門医が肝臓の胆管がんの治療法について、意見を述べたり批判をしたりするのはかなり難しいのが現状だ。
さらに群馬大学自体の問題もある。第一外科にも同じ消化器外科があるが、第一外科のグループが第二外科の事例検討会に出席して診断の批評や治療の方針の批判など出来ない空気になっていなかっただろうか。
1993年、『大学病院の掟―小児科医の見たア然ボウ然事情』(講談社プラスアルファ文庫)という本が話題になった。柳瀬義男さんという小児科医が大学病院の閉鎖性や権威主義を軽いタッチで綴り、ベストセラーになった。
僕が知る限りでは、現在の大学病院は風通しがものすごく良くなり、透明性も高まってきたと思う。そうでなければ大学病院も生き残っていけない。
しかし中には、22年経った今も、さほど進歩していない大学病院もあるのかもしれない。
今回のことで、臨床研究中核病院として群馬大学に渡されるはずだった補助金4億円は現在のところ凍結された。診療報酬上の優遇措置がある特定機能病院の承認取り消しも検討されている。
第二外科の教授で診療科長は「死亡例が続いているという認識がなかった」などとコメントしているが、何をかいわんや、である。
2005年11月、第一外科で生体肝移植の提供者となった女性が下半身不随になった。第二外科でも同じようなテーマで研究していることが分かり、先を競って手術したのではないかと指摘され、構造的な改革を迫られている。
それから10年、時代に即した体制を築けなかったに違いない。互いに批判したりする前向きな空気がない限り進歩はないのに、だ。
※週刊ポスト2015年4月17日号