2004年、愛媛県今治市で小6男児が蹴ったサッカーボールがゴール後方の塀を越え、オートバイに乗車していた85歳の高齢者が転倒、後に死亡した事故が発生。この件の民事訴訟判決で、4月9日、最高裁で下った判決は大きな反響を呼んだ。
山浦善樹裁判長は、約1180万円の両親への損害賠償を命じた二審の判決を破棄し、遺族側の請求を退けた。
保護者に対する責任の度合いについて議論が深まるのは歓迎すべきことだが、判決の影響は思わぬところに波及しそうだ。日弁連「子どもの権利委員」を務める三坂彰彦弁護士が話す。
「今回の裁判では塀の高さやゴールの設置場所など学校側の管理責任を問われる可能性があったのですが、争われなかった。こうした事故の場合、民法714条の規定(※注)から損害賠償を親に求めることが司法関係者の間では通例だったからです。
【※注/民法714条では、責任能力を欠く12歳未満の子供が事故などを起こした場合、監督義務者(この事件の場合は両親)が賠償責任を負うと定めている】
今後、こうした事故の損害賠償は、学校や公園を管理する側の責任としても問われるようになるでしょう。すると今度は訴訟リスクを回避するためにボール遊びが全面禁止になる公園が増える可能性がある」
最近の公園の禁止事項は多岐にわたり、すでに子供の遊び場ではなくなっている。公園にある注意書きには、ボール遊びだけでなく、大声、自転車乗り入れ、花火、犬の散歩、楽器やダンス……など、様々な禁止事項が並ぶ。また、ラジオ体操でさえも近隣住民からのクレームを気にして許可申請が必要な自治体もある。
日本公園緑地協会の調査(2004年)では、全国の政令指定都市と東京23区の公営公園のうち、52%がキャッチボールを全面禁止にしているという。
そうした風潮に対して教育関係者からは嘆きの声が上がっている。子供の遊びに詳しい城西国際大学の羽崎泰男教授が語る。
「1990年代から、事故が発生した場合の責任回避のため、管理者が公園でのボール遊びなどを禁止し始めました。野球のボールだけでなく柔らかいゴムボールなども一律に禁止されています。そのため、いまの子供は父親世代が楽しんだ三角ベースなどを知らないのです」
※週刊ポスト2015年4月24日号