トヨタの燃料電池自動車(FCV)である「MIRAI」の登場など、昨今エネルギー源として注目される「水素」。水素社会を実現するうえで、牽引役を果たすのが、FCVだといわれている。しかし、世界の自動車メーカーのなかでFCVを市販しているのはトヨタのみ。ホンダは2016年の販売開始を目指している。
『脱・石油社会 日本は逆襲する』(光文社刊)の著者で水素エネルギーの問題に詳しい、清水典之氏はこう話す。
「他メーカーがFCV市場に参入しないのは、水素を供給する水素ステーションが普及しない限り買う人はいないと考えているからです」
現在、日本には水素ステーションが15か所あり、JX日鉱日石や岩谷産業などが年内に100か所の建設を計画している。だが、それでも十分とは言えない。仮に補助金等の後押しで建設が加速したとしても、海外でも同様に水素インフラ整備が進まなければ、日本がガラパゴス化しかねないのである。
また、環境問題が専門の安井至・東大名誉教授はこう語る。
「自動車の将来は、米・カリフォルニア州が決めると言っても過言ではありません。加州の自動車市場は全米最大ですが、非常にラジカルな環境政策を採っている。2018年からのZEV規制(*注)では、販売台数2万台以上のメーカーに対し、販売台数の2%以上をFCVかEVにするよう義務付けられます。そのため加州では、2015年までに州内に68か所の水素ステーションを整備する計画です」
【*注/ZEV規制/米・カルフォルニア州で一定台数を販売する自動車メーカーに、一定台数の電気自動車や燃料電池車の販売を義務づける規制。1996年に制定、2018年に改正される。】
これまでトヨタはハイブリッド車の販売で規制をクリアしてきたが、新規制はハイブリッド車を別枠にしている。加州で約15万台販売しているトヨタの場合、約3000台をFCVかEVにしなければならない。見切り発車のようにFCVを市販するのは、そのためとの見方もある。
なお、2018年のZEV規制では従来のビッグ3(GM、フォード、クライスラー)やトヨタ、ホンダ、日産に加え、新たにBMWや現代、起亜、メルセデス、フォルクスワーゲンが対象になると見られている。そうなれば、世界中のメーカーが巻き込まれ、自国の自動車市場にもFCVが波及する可能性は十分ある。
世界の自動車市場がFCVとEVのどちらを選択するかは未知数だが、長距離移動の多いアメリカでは航続距離の短いEVは不向きとされている。一方のFCVはまだ高額で、水素ステーションの普及なしでは利用できないという課題を抱えている。日本のFCVが世界のスタンダードになるか否か、カリフォルニア州の今後の動静は試金石となりそうだ。
※SAPIO2015年5月号