日本の“おふくろの味”といえばみそ汁だ。しかし、近年のライフスタイルの変化や社会構造の変化、そして新技術の普及で、そんな伝統食のイメージは変わりつつある。
日本人のみその消費量は減少の一途を辿っている。
総務省「家計調査」によると、1990年に約9.5キロだった「2人以上世帯」のみその年間購入数量は、2012年には約5.8キロまで減った。スーパーなどで売られる一般的な家庭用みそパック(750グラム)に換算して、20年ほどで約5個分減った計算になる。
みそ醸造会社の倒産も相次いでいる。昨年末には、1906年創業の新潟の老舗みそメーカーが11億円の負債を抱えて倒産した。景気低迷による個人消費の落ち込みや、みそ需要の低下による低価格競争の激化が原因だった。
みその好みは地域によって異なるため、メーカーは地方の中小企業が多く、ひとたび業績悪化すると経営が一気に行き詰まってしまう傾向が強い。
しかし、「みそ業界」のすべてが苦境を迎えているわけではない。即席みそ汁市場は拡大を続けており、2014年の売り上げは2008年の5割増となっている。
即席みそ汁には、主に「生みそ」、「粉末」、「フリーズドライ」の3種類があるが、その中でも急成長を遂げているのがフリーズドライ市場だ。売り上げの伸び率は、2008年比で何と約500%にもなる。
フリーズドライとは、その名の通り凍らせたまま乾燥させる製法だ。技術が確立された当初はカップに入っている具材などに使用されることが多かった。天野実業広報部・中村勇也氏が説明する。
「みそ汁にこの製法が使用されたのは意外と古く、1960年代には国内で産声を上げています。定着したのは、フリーズドライの卵スープなどが一般の家庭に浸透した1990年代に入ってからです。
フリーズドライの主なメリットは“ビタミンなどの栄養成分が損なわれにくい”、“常温で長期保存がきく”、“味や風味を損なわない”の3つ。そのため即席みそ汁市場では抜きん出た成長を見せています」
富士経済食品担当研究員・三浦拓実氏が語る。
「これまでは災害時の非常食という認識でしたが、実際に食べてみたらおいしいと評価されるようになっています。お湯をかけるだけで食べられる手軽さも受けがよく、一般家庭にも広まりました」
衰退する従来のみそ市場と伸びていくフリーズドライ市場。みそ造りから、みそ加工へと比重がシフトしている。
※週刊ポスト2015年5月1日号