九州・大分に髪の毛が伸びる人形がある。そんな情報を手に入れた『女性セブン』取材班は現地へ飛んだ。
JR大分駅から車で約10分。閑静な住宅街の一角に髪の伸びるといわれる人形が納められている『良福寺』はあった。寺の正面には大きな墓石が立ち、本堂の前には観音像。入り口には石仏が並び、どこか重い空気が立ち込めていた。
「東京からいらしたんですか」
本堂の扉を開くと住職・中村俊雄(しゅんゆう)さんが出迎えてくれた。本堂の中は新しい畳が敷かれ、神仏が奉られている祭壇は黄金に輝いている。
「髪が伸びる人形はどこに?」
記者が尋ねると、住職は「あちらにありますよ」と祭壇に向かって左横にある布がかぶせられたガラスケースを指さした。
住職がゆっくり近づき、布をとると、高さ30cm程度の小さな着物を着た人形が現れた。日本舞踊の代表的演目『藤娘』の格好をしたその人形は笠をかぶり、色白の愛らしい顔立ちだ。そして、左肩あたりの髪がまばらに伸びているように見えた。
「私も詳しくないんですが…」
住職は静かに語り始めた。人形が持ち込まれたのは先代の住職が在任中だった頃。今から20年ほど前である。
「持ち主の女性とその娘さんが持ち込んだそうです。母子の家にその人形が来てからというもの、娘さんに異変が起きたそうです。眠っているとどうも人形が胸にのしかかっているように思えて苦しくなる。そんなことが続くので、母子が供養して欲しいと」
それからしばらく経ってからのこと。きれいに切りそろえられていた髪が不自然に伸びていると先代の住職が気づいた。
「今でも一定まで伸びると髪が抜け落ちるんです。普通は髪が抜けたら、薄くなるじゃないですか。でもこの人形はずっと豊かな髪のままなんです」
足元を見ると髪がまばらに落ちている。そして記者は視線を上げ、人形の顔を見つめた。下から見上げると、何かに思いをはせ、一点を見つめている。しかし角度を変え、上から見つめると、ものさみしげに目を潤ませているように見える。
人形は何かを訴えているのだろうか。表情が違って見えてもこわさは感じなかった。むしろ、話しをしたそうに見えた。記者が「かわいらしいお顔立ちですね」と語りかけると、不思議とほほ笑んでいる表情に変わったように見えた。
この寺には持ち主に次々と不幸をもたらす石も奉られていた。こちらも供養済みだが、こんないわく因縁のついたものに囲まれ、何事もないのだろうか。
「私は、法力ではね返していますから。修行した身がやられたらいかんと思っています」と笑いながら語る住職。取材を終え、寺を後にした本誌記者はふと何かに呼びとめられているような気がした。それは「また来てね」と無邪気な語りかけのように思えた。
※女性セブン2015年5月14・21日号