築地市場からの移転先として来年11月の開場を目指す豊洲新市場(東京・江東区)に暗雲が垂れ込めている。
市場と同時オープンする予定の商業・観光施設「千客万来」の開発事業者である、すしチェーン「すしざんまい」を展開する喜代村が先月末、撤退を表明した。今年2月には共同事業者だった大和ハウス工業も施設の搬入路を巡って青果市場関係者と折り合いがつかず撤退しており、文字通り計画は「白紙」となった。
喜代村の木村清社長は会見で撤退理由を聞かれると、都への不信感を露わにこう話した。
「移転先に近いお台場の温泉施設『大江戸温泉物語』と東京都の定期借地権契約が事前相談もなく2021年末まで延長されていた。来年3月で契約が切れるというので、豊洲新市場に温泉施設を造ることを決めたのに」
喜代村は都の公募で事業者に選ばれ、場外市場や温泉施設などの建設を計画していたが、温泉施設の競合で採算を見込めなくなったと説明した。
これに対し、都は「そもそも温泉施設の設置は要請していない。(大江戸温泉物語の)契約延長を伝える約束をしていたわけではない」(都中央卸売市場管理部)と説明するが、事前調整の不備は否めない。
原因は東京五輪のために移転を急いだことに尽きる。昨年12月、舛添要一都知事が「新市場は2016年11月に開場する」と発表した。開場時期の設定は五輪に向けた交通網整備のためだった。
「築地市場の中に(東京五輪の幹線道路となる)環状2号線が開通する。その工事を(五輪までに)完了するには2017年4月までに市場を一部解体する必要があります」(都新市場整備部)
つまり築地が移転できなければ、都が命運を懸けて招致した五輪まで頓挫してしまうことになる。そのため都は「千客万来」問題は豊洲新市場の開場時期には影響しないとし、移転を予定通り進める構えだ。
問題の商業・観光施設について、舛添都知事は会見で、「拙速にやって実りがないならばだめだと思うが、できれば同時オープンしたほうがいいと思う」とし、新事業者の再公募を急ぐ考えを示した。ただ、前出の都中央卸売市場管理部は「(来年11月の同時開場は)非常に厳しい状況」だと認める。
これに怒り心頭なのが市場関係者や、新市場に期待を寄せる地元・江東区だ。特に今回の頓挫を受け、区長名義で都知事に商業・観光施設と新市場の同時開設を文書で申し入れた江東区は憤りを隠さない。
「『千客万来』がなければ市場は閑散としてしまう。同時開設は区民との約束であり、事業者の撤退を招いた都の責任は重大だ」(政策経営部港湾臨海部対策担当)
※週刊ポスト2015年5月22日号