華やかな発展が伝えられる中国の都市だが、なかでも“格差”は生まれている。同地の情勢に詳しい拓殖大学教授の富坂聰氏が指摘する。
* * *
2014年2月、性産業に対する大規模摘発によって“世界の性都”としてその名を馳せた東莞市。すでに性産業は壊滅状態だが、本来の東莞の顔は「造業の街」である。
その東莞を新たに襲ったのが相次ぐ工場の倒産という試練である。2015年4月25日、『経済観察報』が伝えたのは、〈東莞を襲った第二次企業倒産ブーム 工場閉鎖の連鎖やまず 政府も黙認か〉というショッキングな記事である。
このところの中国は、PMI(製造業購買 担当者景気指数)をはじめ製造業に厳しい数字が目立っている。中国政府は「新常態」という言葉で低成長を「調整の痛み」、つまり製造業から第三次産業への転換の過程として積極的にとらえようとしているのだが、製造業の現場からは厳しい悲鳴が聞こえてくる。
記事によれば、この一年で少なくとも4000社が倒産に追い込まれているという。この傾向はすでに2008年には顕著で、同年から2012年までの5年間で、東莞では7万2000社が倒産しているというのだ。
中国が2012年の全国人民代表大会で経済の構造転換をうたう前から明らかな傾向が見られていたことになる。
中国では広東仕様で起きた変化が、たいてい5年くらいの時間を経て全国的に広がる傾向がある。そして、東莞は深圳とともに中国のけん引役であった広東省を引っ張る重要な都市であった。
記事によればパナソニック、ダイキン、シャープ、TDKなどの日本企業が同地での生産規模を縮小することを発表しただけでなく、ナイキ、フォックスコン、コカコーラ、サムスンなどが中国から離れることを検討中だという。
2013年まで、世界最大の歓楽街を自任してきた東莞だが、性産業への打撃から製造業の受難と続き、人口減少にも拍車がかかっているという。中国の高速発展を象徴する都市であった東莞はいま、時代の逆回転の恐怖に揺れている。