ICカードの普及により、電車の乗り降りやコンビニエンスストアでの少額の買い物などが非常に楽になったが、会社で交通費の精算を行なう場合、ICカードの割引料金はどのような扱いになるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
派遣社員です。先日、交通費の精算をしたところ、会社側からICカードの割引料金で請求してほしいといわれました。ICカードを使用すると、例えばバスの運賃は4円の割引になりますが、やはり交通費は各交通機関の規定の料金で精算するべきだと思います。会社の言い分は法的に問題ありませんか。
【回答】
業務上で私用のICカードを使って交通機関を利用した後の精算のことですね。業務上利用した交通機関の使用料の精算については、会社の経理関係の規程でその処理方法が決まっていると思いますが、仕事上の経費ですから、実費精算が当然であると思います。
ICカードを使うと使用料が安くなる場合でも、カードの作成や維持に費用が掛かるのでなければ、実費としてあなたの負担になっているのは割り引かれた金額だけですから、その精算しか受けられないと思います。なぜなら交通費の精算は、業務を行なう上で本来会社が負担すべき費用を被用者が立て替えているものの返却を求めることだからです。
このような立替金の請求では、基本的に立て替えた金額以外には請求できません。例外は、立替金の精算を会社が遅らせて、その間の遅延損害金が発生したなどの特別の事情がある場合だけです。
私には、あなたが実際に負担したICカードでの引き落とし額以外に、割引分を請求できる理屈を思い当たりません。もっとも、所定の正規料金と違って、ICカードによる割引料金の金額が簡単にはわからない場合、また、計算が複雑であって時間がかかる場合やICカード作成維持に費用を出している場合には、そうした事情を説明し、経理担当者と合理的な金額を相談したらよいでしょう。
しかし、このようなことがなければ、私用のICカードを使って、差額の割引を受けることで会社の交通費節減に協力したと割り切るほかないと思います。そして、会社がICカード利用の場合でも、実費にこだわるのであれば、今後は自分のICカードの利用を止め、現金支払いにするか、それが面倒であれば、会社から経費用のICカードの貸与を受けるようにしたらいかがでしょうか。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年5月22日号