噴火は規模も時期も予知できない──日本人は昨年9月、57人の登山者の命を奪った御嶽山(おんたけさん)の噴火(水蒸気爆発)によって大自然の脅威と科学の限界を思い知らされた。ところが、この国の政府とマスコミは箱根山の異変に際してその教訓を活かそうとしない。火山性地震が連日観測されている箱根は、御嶽山より遥かに多くの観光客が訪れる地だ。だからこそリスクを過小評価してはならない。
御嶽山と箱根という2つのケースに共通する教訓は「観光への影響」に配慮することの危険だ
御嶽山のケースで、気象庁は警戒レベルを上げる判断はできなかったものの、火山性地震の増加を周辺自治体に伝えていた。しかし当時、気象庁の担当者は本誌に「自治体がどのように登山者に周知したかはわからない」と回答した。
自治体に判断を任せれば、観光客の足が遠のく周知を避けたがる。また、政府・メディアも危険だと報じて噴火しなかった際に地元から「観光客が減った」と反発を受けるのを嫌って腰が引ける構図がある。
秋の紅葉シーズンという地元の稼ぎ時と重なった御嶽山の噴火では、ほとんどの登山者が異変を知らされないまま山に入り、帰らぬ人となった。立命館大学歴史都市防災研究所教授・高橋学氏の話。
「規制区域を広げると観光で成り立つ地元は困るから、箱根町が噴火口近くの半径300メートルに限って立入禁止にし、地元では『危ないのはごく狭い範囲だけ』とアピールします。
しかし、本来は観光客が多い場所だからこそ、危険を積極的に周知すべきはずです。人が多い場所なら規模の小さい噴火でも多くの人命にかかわるし、海の真ん中の無人島なら大きな噴火でも人的被害はありません」
当然の考え方だが、大メディアは「観光への影響」を気にして口をつぐむ。時には「風評被害」という言葉を使って地元を“応援”してみせる。それが取り返しのつかない人的被害を招くなどとは考えない。危機管理ジャーナリストの渡辺実氏はこういう。
「新聞などは安易に風評被害という言葉を使いますが、噴火リスクは実際にあるのだから風評とはいえない。安全だという根拠もなく『大涌谷から少し離れた箱根湯本や強羅は大丈夫』と報じるのは無責任ではないか」
それこそが根拠のない風評ではないのか。箱根山の火山性地震が突如増加したのは4月26日だが、気象庁の発表は5月3日で、噴火警戒レベル引き上げは大型連休最終日の6日だった。
「本気で被害を最小限にとどめたいと考えるなら、少なくとも多くの観光客が箱根を訪れるゴールデンウィーク前に火山性地震などについて発表すべきだったでしょう」(前出・高橋氏)
むしろ実際には、多くの観光客が訪れる連休が終わるのを待って発表されたわけである。
※週刊ポスト2015年5月29日号