「朝ごはん」を用意する大学が全国で相次いでいる。たとえば東京経済大学では「100円朝食」が通年で提供されており、連日1限前のキャンパスが盛況となっている。期間限定ではあるものの、早稲田大学や慶應義塾大学、明治大学と言った有名私大でも実施されている。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏がこういった状況が各所で発生している理由について分析する。
「大学全入時代にあって多くの大学で志願者が減るなか、朝食を無料、あるいは低価格で提供することで、“うちの大学は学生の生活面までケアしている”ということを保護者にアピールして学生を囲い込む狙いがある。今のところはまだ志願者の増加には結びついていませんが、保護者の心証は良いようです」
東京経済大学では地方などに赴いて保護者会を開いているが、その際に保護者から数多く寄せられるのが「息子はきちんと食べているのか」「学校に行っているかが心配」というわが子を気遣う声だという。それは果たして大学に委ねることなのだろうか。
別の理由もある。朝食を大学で食べることには午前中の授業の出席率の向上を図ったり、友人とコミュニケーションをとる機会を増やしたりする意味もあるのだという。
「志願者の確保と並んで大学にとって重要なのは、中退者を出さないことです。年間で100万単位の授業料を納めてくれる学生を失えば経営面で大きなマイナスとなる。毎日きちんと授業に出席させ、学内コミュニティーからドロップアウトさせない目的があるのです」(石渡氏)
それが大学のブランドを守ることにつながるようだ。石渡氏が続ける。
「泥酔して救急車で病院に運ばれるなど、学生が問題行動を起こせば大学のイメージダウンになってしまう。大学は学生の風紀を正すことで、そうした事態を未然に防ぎたいのです。格安の朝食を提供し、規則正しい生活習慣を身に付けさせるのにはそうした意味合いもあるのです」
大学の涙ぐましい努力は批判すべきものでもないが、それにしても過保護すぎないだろうか。
「学生は自分で知る努力をしなければならないのに、今の若者たちは誰かに教えてもらわなければそれができない。たとえ過保護だといわれようとも、“規則正しい生活をして、問題を起こしてはいけません”ということを懇切丁寧に教えなければならないのです」(石渡氏)
※週刊ポスト2015年5月29日号