川崎市川崎区の簡易宿泊所2棟が全焼した5月17日未明の火災は9人もの犠牲者を出した(5月21日現在)。他にも体の一部が複数見つかっており、犠牲者はさらに増える可能性がある。
この火災で図らずも注目されたのは、簡易宿泊所における生活保護受給者の多さだ。
東京の山谷、大阪の釜ヶ崎、横浜の寿町などに集中する簡易宿泊所は戦後の高度経済成長を支えた日雇い労働者たちが多く利用したが、近年は生活保護費で生計を立てる高齢者の利用がほとんどだ。全焼した2棟では宿泊者=入居者のほぼ全員に近い68人が生活保護を受給していた。2012年の東京都の調査では、簡易宿泊所の生活保護受給率は1999年の44%から87%に上昇した。
そうした実態につけ込んで荒稼ぎする悪徳業者が増えている。寿町で生活困窮者を支援する「寿支援者交流会」事務局長の高沢幸男氏が語る。
「火元となった『吉田屋』さんは当てはまりませんが、私たちが問題視しているのは、入居者を粗末な部屋に押し込めて通帳と印鑑を預かり、生活保護費を管理して搾取する業者です」
悪徳業者の「貧困ビジネス」の仕組みはこうだ。住所がないために生活保護が受けられないホームレスに「部屋で生活できるようにしてやる」と声をかけ、運営する簡易宿泊所に入居させて住民登録と生活保護申請をさせる。申請が通れば、通帳と印鑑を預かって家賃や食費の名目で生活保護費を取り上げる。本人には「タバコ代」として月に1万円程度しか渡さない。
入居者の生活レベルは支払う金額に比べてかなり低い。部屋は6畳ほどの部屋を薄いベニヤ板で3つに区切って1人用にする。食事は3食出るが食材に金をかけないために極めて質素だ。悪徳業者の宿泊所に入居したことのある60代の男性は「食事の量が全然足りなくてとにかく腹が減る。かといって路上生活よりはましなので我慢せざるを得なかった」と証言する。
「多くの業者が生活困窮者支援のNPOとして活動しているため、悪徳業者かどうか判別しにくい。かといって家賃がはるかに安いアパートは保証人が必要だったり敷金・礼金の問題があったりするので入居をためらう人がほとんど。何より、帳場の管理人が部屋まで行って安否確認してくれるので、アパートよりも暮らしやすいんです」(高沢氏)
生活困窮者のセーフティネットになっている簡易宿泊所で入居者が安全・安心に暮らせるように、行政は防火対策だけでなく、悪徳業者対策も進めなければならない。
※週刊ポスト2015年6月5日号