なぜ中国はかくも野蛮な権力闘争を繰り返すのか。中国問題を長年考察し続けてきた作家の井沢元彦氏が、国家としての「構造的欠陥」をえぐり出す。
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本物の民主主義国家とニセモノの民主主義国家を見分ける一番簡単な指標は、「野党が存在しているか?」ということである。野党というのは単なる政党ではなく、公平な選挙で勝てば、与党になって政権を担当できるチャンスを与えられている政党でなければならない。
一党独裁の国家は当たり前の話だが民主主義国家ではなく、世界の多くの国々が民主制を達成している現在となっては、時代遅れの二流国家と断じていいだろう。
中国はまだ一度も完全な民主主義になった事は無い。それなのにこれまでの日本では、この時代遅れの二流国家を褒めそやす人間がジャーナリストや文化人に大勢いた。本当に情けない話である。
中国は二流国家であるという表現に、反発を覚えた人もいるかもしれないが、このように順を追って検証してみれば民主主義を採用できているか、できていないかが文明国の必須条件であることが分かるだろう。
たとえば今度の選挙で自民党が敗北し民主党が政権を奪ったとする。しかし、だからといって自民党議員が全員銃殺されたり牢獄にぶち込まれる事はありえない。アメリカだって、共和党政権が誕生したら民主党の議員が全員殺されるなどという事は、絶対有り得ないことだというのは分かるだろう。これが文明国というものである。
しかし中国は有史以来、選挙によって政権を交代した事は一度もない。
そもそも共産党独裁国家では、そんな事は出来ないのである。今は習近平体制が続いているが、彼は心の中に常に不安を抱いているはずである。もしライバルの掃討に失敗し、ライバルが権力を掌握するようなことになれば、自分も自分の家族も必ず殺されるか牢にぶち込まれるからである。それを防ぐためには、あらゆる口実を用いてライバルを潰しておくしかない。
中国共産党の創設者である毛沢東は、後継者として国家主席までつとめさせた劉少奇を軟禁状態のまま死に追いやった。また続いて後継者に指名した林彪も殺そうとした。自分の権力を奪おうとしたからである。林彪は国外脱出を図り死んだ。乗っていた飛行機が墜落したのである。撃墜されたのだという話もある。
また、毛沢東の死後、中国の最高権力者になったトウ小平も何度も殺されかけている。一党独裁の体制が続く限り、この「殺しの連鎖」は止まらないだろう。
※SAPIO2015年7月号