長野県の諏訪中央病院名誉院長でベストセラー『がんばらない』で知られる鎌田實医師は、チェルノブイリや中東での医療支援でも知られている。たびたび訪れる支援先の難民キャンプで耳にする日本という国へのイメージから、この国のあり方について考えた。
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イラクやヨルダン、そしてガザ地区などの難民キャンプで医療支援をしていると、よく言われることがある。
「日本は戦争をしないと宣言している。だから信用している」
また、別のキャンプでもこんなことを言われた。
「他の国が医療支援に入ってくれても、長い間滞在していると、このまま乗っ取られるんじゃないかと、不安になってくる。日本なら安心できるから、いい」
そんなことを考えたこともなかった僕は正直驚いた。でも、ちょっと想像力を働かせれば、なるほどな、と腑に落ちた。
難民の人々は全員が戦争や紛争の犠牲者で、こと戦闘に関しては人一倍敏感なのだ。難民キャンプに支援に来ている国だって戦争の当事国だったりもする。だから支援者といっても簡単には信用できないのだ。
かつて、日本人もスイスを永世中立国として平和な国の代表のように考えていた時代がある。難民キャンプの人たちはそんな目で、日本という国や日本人を見ているのかもしれない。
日本はこれから安全保障関連法案や憲法をどうするかの議論に入ることになるだろうが、とにかく拙速にならないことが肝心だ。
難民キャンプの人たちの敬意にあふれた言葉を今一度思い出して欲しい。戦争をしない、巻き込まれないことの幸せを、僕は彼らから身をもって教えられてきた。目がつぶれたり、脚が吹っ飛んでしまった子どもたちを山のように見てきている。
だから、日本であんな悲惨な事態になることだけはなんとしても避けねばならないと信じている。
世界を平和にしていくリーダーとしての、リーディングカントリーになれるチャンスを、これからの法案審議が変えてしまうのではないかと心配だ。
日本も広島、長崎に原爆が落ち、東京大空襲をはじめ、全国で空襲の被害を受け一般の人々が亡くなった。戦争をしていいはずはない。戦争をしないようにしていくのが政治家の任務だと思う。今こそ、この国のあり方を一人一人が考える必要があると思う。
※週刊ポスト2015年6月19日号