「無印良品」(良品計画)の商品群を眺めると、ひときわ目を惹くヒット商品がある。累積販売数100万個を突破した『体にフィットするソファ』。昨今「人をダメにするソファ」とも言われる同商品は、中国やニューヨークでも予約が殺到、国内でも品薄状態の人気ぶり。
他のソファにはない独自の魅力とは何か。このヒット商品と「無印良品」の快進撃にはどんな関係が潜んでいるのか。作家の山下柚実氏が担当者を訪ねた。
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近年、世界各地で着々と存在感を増しつつある日本のブランド「無印良品」。店舗を展開する良品計画の2015年2月期連結経常利益は、前期比15%増・266億円となり4期連続最高益を更新中だ。
好調を後押しする要因の一つが海外事業。中国の店舗数は今期31店増える計画で、秋にはニューヨークにも旗艦店を開く予定。今期末には国内外で計773店、71店増やす計画という攻勢ぶりだ。
数ある無印商品の中で、いまや定番商品となった『体にフィットするソファ』には、もう一つの名前があるのをご存じだろうか?
「人をダメにするソファ」
一度聞いたら忘れられないフレーズ。座った時の心地良さを、絶妙なまでに言い尽くしている。
「でも私たちが付けたネーミングではないんですよ」と同社生活雑貨部・依田徳則氏(39)は笑った。
「使った方がいわば勝手に名付けてくださった上に、ソファでリラックスしているイラストと共にウェブにアップされたようです。それが拡散し、評判が評判を呼び、おかげさまで昨年は注文が倍近くに伸びました」
SNSの時代を象徴するようなエピソード。それにしても「人をダメにする」とは、どんな座り心地なのだろう?
「体の形にあわせて変形するのが特徴で、いくつもの異なる座り心地を楽しめます。中に詰めたビーズが微粒子状なので、体にしなやかにフィットするのです」
外側のカバーにも秘密が潜んでいるらしい。
「伸縮性が違う二種類の生地を縫い合わせることで、横置きにすれば背もたれのような固さが出ますし、縦置きにすれば寝転ぶことができる。椅子のようにもたれたり、体を柔らかく包みこんだりと、好みによって座り心地を楽しむことが可能です」
その変幻自在さが究極の心地良さにつながった。実はこの商品の発売は12年前の2003年。
「当時、『すわる生活』というテーマを設定し、ネットユーザーと対話しながら開発した商品でした。低い位置で体を崩して座るクッション、という企画自体は、お客様の要望の数の多さで決まりました」
※SAPIO2015年7月号