NHK大河ドラマ『花燃ゆ』の舞台となっている山口県では、キャスティングを巡って安倍晋三首相とNHKの関係が話題にのぼっている。
「安倍首相の支援者の息子が、『花燃ゆ』に抜擢された」(下関市議会関係者)というのである。
外国船砲撃の報復として、長州藩は米仏英蘭4か国艦隊に砲撃を受け、それをきっかけに高杉晋作が奇兵隊を結成。その奇兵隊隊士「熊七」を演じる前田倫良が「支援者の息子」だという。
熊七は農家の生まれだが、奇兵隊に入隊後、幕長戦争や鳥羽・伏見の戦いで活躍する人物で、「ちょい役」ではない。
前田は『大河ドラマ・ストーリー 花燃ゆ 後編』(NHK出版刊)にも顔写真入りで紹介され、プロフィールには「主な出演作」として映画『長州ファイブ』『獄に咲く花』などが挙げられているが、全国的な知名度があるとはいえない。地元財界人が語る。
「『長州ファイブ』『獄に咲く花』は下関で制作された映画です。両作は前田の父である前田登氏が制作委員長を務めました。
登氏は下関にある明太子製造の老舗・前田海産の会長で、倫良はその次男。登氏は“地方から良質な映画を発信する”といって、地元財界人の仲間と下関に映画制作会社を設立した。『長州ファイブ』は制作費5億円で、登氏が地元企業150社から資金を集めました」
ちなみに『長州ファイブ』は幕末に長州藩からヨーロッパに極秘に派遣された井上聞多(馨)、伊藤俊輔(博文)ら「長州五傑」と呼ばれる5人の藩士が主人公で、前田倫良はそのひとり、遠藤謹助を演じている。
第一次安倍政権下の2007年2月に全国公開され、公開初日の舞台挨拶の時には昭恵夫人が「この作品が“美しい国・日本”の創造に連動することを期待します」との祝電を送った。
前田海産は安倍氏が支部長を務める自民党山口県第4選挙区支部に毎年12万円を献金しているだけに、「安倍支援者の息子だから抜擢されたのでは」と疑念を抱かれているわけだ。
下関で父・登氏を直撃した。
──安倍首相の支援者と聞いているが。
「安倍総理とは同じ町内会ですから、もちろん後援会にはうちの父の代から入っています。(総理の父)晋太郎さん(元外相)の時代からやっていますよ。ただ、林さん(芳正・農水相)とも親しいですよ。林さんも町内だから」
──次男の大河ドラマへの抜擢は、NHKが安倍首相に気を遣ってのことだといわれている。
「それはないと思いますね。安倍さんはそういうことはしませんよ。癒着だったら、もっといい役に抜されてるんじゃないですか」
なお、NHKは「前田倫良さんは自然な地元の言葉を話せるので出演依頼した」と答えた(ただし、6月7日放送の第23話まで、前田の登場シーンにセリフはなかった)。
※週刊ポスト2015年6月26日号