今、多くの若者が『ヘッドホン難聴』になる恐れが指摘されている。『ヘッドホン難聴』とは、ヘッドホンやイヤホンを長時間使い続けることによって起こる難聴のこと。今年3月、WHO(世界保健機関)は、若者が難聴のリスクにさらされているとするリリースを発表。スマホや携帯電話の所持が世界的に拡大したことで音楽を聴く機会が増え、世界11億人の若者が難聴になる危険にさらされていると警鐘を鳴らしている。
大きな音を聴くことによって難聴をきたすわけだが、難聴にもいくつかパターンがあるという。日本橋大河原クリニックの大河原大次院長が解説する。
「ひとつは昔からよく言われている『騒音性難聴』です。大きな音を聴き続けることで起こる難聴で、例えば工場や造船場、鉱山などで働いている人が、騒音に長期間さらされるうちに難聴を起こすなどがあります。最近では、飛行機の整備員や滑走路の係員、モータースポーツのピットクルーなどは、ノイズキャンセラのヘッドホンで騒音を防いでいますね。
他には、急性に起こる難聴があります。『急性音響外傷』は、急激に大きな音が入ってくることで起こります。顕著な例は、昔はディスコ難聴と言いましたが、今でいうクラブやコンサートで大きな音が出るスピーカーの近くにいたり、近くで花火が打ち上げられるなど、急に大きな音が耳にドンと入ってくることによって聞こえにくくなることがあります」(大河原さん、以下「」内同)
『ヘッドホン難聴』で実際に多いのは、急に入る音というよりは、大きな音を聴き続けることで起こるパターンだという。
「若い人が楽しむロック系の音楽などは、大音響で聴く方が楽しいですよね。それでついついボリュームを上げやすいことから、若い人に難聴が起きやすい。同時に問題なのは、そういった大きな音を何か月も何年もずっと聴き続けることで、難聴になってしまうことです」
難聴といっても、音が急に全く聞こえなくなることはほぼなく、聴力は徐々に失われていくという。本来、人間は約50Hz~1万Hzを聴く能力を持っているが、加齢とは別に、大きな音を聴き続けることで、4000Hzや8000 Hzなどの高い音を聴く神経から障害を受けていくと大河原さんは解説する。
「大きな音を聴き続けると、耳がワーンとしたり、耳鳴りがする経験は誰しもあると思います。それもある意味では小さな障害を受けています。多くの人は、それも最初のうちは収まりますが、聴き続けることで次第に収まらなくなってきます。進行すると4000 Hzが聴こえなくなり、さらに普段の会話レベルである2000Hzや1000Hzが悪くなり、普通に会話をしている時の音がだいたい500~2000Hzほどですから、日常生活に支障が出るほどに悪くなることがあります。徐々に悪くなるのが、この病気の怖いところです」
難聴というと、大きな音を聴くことで鼓膜が破れると思われがちだが、そうではなく、音を感じる神経細胞がダメージを受けるのだという。