【書評】『友だちリクエストの返事が来ない午後』小田嶋隆著/太田出版/1400円+税
【評者】香山リカ(精神科医)
エッセイの妙手・小田嶋隆による“大人(の男)のための友だち論”が本書。基本的に「友だちは子どものためのもの」であり、大人(の男)は「トモダチ、トモダチ」と騒がなかったはずなのに、最近どうも風景が変わった。
とくにネットが普及しSNSなるものができてから、学生時代の同級生や地元の旧友ともすぐ“つながれる”ようになり、相手の近況が手に取るがごとくわかるようになった。また、たいして親しくもない知り合いから「友だちリクエスト」なる申請が届くようにもなった。
そういった動きに違和感も覚えつつ、著者は冒頭で「自分は友だちの多い人間ではない」と宣言する。しかし世間には、友だちがおらず孤独であることを必要以上に怖れたり、仲間づくりのために排外主義的なデモにまで加わったりする者もいる。
新入社員研修のプログラムまでが“友だちづくり”になっていて、同期の友情を愛社精神に利用しようとしている。著者はそういった事例をユーモアを交えつつ紹介し、ひとことで「われわれの社会は、「『友だち』に嗜癖(しへき)した人間を量産しつつある」と言うのだ。
とくに3.11以降、「家族最高、友だち最高」とキズナを手放しで賞賛するムードが広がったが、私的で濃密な人間関係に息苦しさを感じたり、何としても人とつながろうと躍起になったりする人も多い。しかしここに来て、本書やベストセラー『家族という病』など「人間はひとりなのだ」と基本に戻り、孤独に耐えることの大切さを説く本が相次いで出て注目されているのは興味深い。
ところで、本書の魅力は本文だけではない。各章の扉に友情にまつわる箴言が掲げられているのだが、その脇に小さく記された著者による補足やツッコミが抜群に面白い。たとえば「多くの愚者を友とするより、一人の知者を友とするべきである」というデモクリトスの言葉には、「知者とは友を寄せ付けない者のことだ。」ホンモノの大人の男になれる本、ぜひご一読を。
※週刊ポスト2015年7月3日号