蓋を開ければ想定を900億円も上回るドンブリ勘定だった。2020年東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場は多くの批判を浴びながらも現行のデザインのまま建設されることが決定した。
総工費は2500億円。2008年の北京五輪のメインスタジアムが540億円だったことと比較して約5倍と桁違いの金額だ。工事現場の労務費が中国と日本とでは違うからというのは理由にならない。なぜなら2012年のロンドン五輪ですら610億円で済んでいるからだ。
そもそも当初3000億円といわれた巨額な工費が問題となり、床面積を約2割縮小し1625億円にまで総工費を圧縮したはずだ。にもかかわらず最終的に膨れあがったのはなぜか。
元凶とされるのが、屋根にかかる2本の印象的な「アーチ」だ。建築エコノミストの森山高至氏がいう。
「高さ約70メートル、長さ約370メートルの鋼鉄製で、品質が高く高価な鉄が2万トン近く必要とされる。このアーチを取りやめれば、最大1500億円のコストカットになるという試算もあります」
高額の理由はそれだけではないようだ。2000年シドニー五輪のメイン会場にも2本のアーチがあったが、総工費は510億円だ。デザイン変更の必要性を訴える建築家で、元東大教授の大野秀敏氏が語る。
「見積もりがここまで高騰したのは、巨大なアーチを支えるために本来必要のない高層マンション並みの高度な免震構造を導入しなければならなくなったからだと聞いています」
確かに新国立には免震構造を採用することが発表されているが、これは本来必要ないものだという。大手ゼネコンに勤める免震構造の専門家が明かす。
「東京ドームや福岡ドームなど国内のスタジアムでも高層マンション並みの免震構造が導入されたものなどない。スタジアムの上に重いものが乗っていなければ、平たい競技場には必要ない技術です。過去の五輪のメイン会場でも免震を入れたという話は聞いたことがない。
通常、マンションでは総工費の3%程度が免震装置の費用としてかかるが、スタジアムではさらに高額になる。業界ではアーチの維持に固執したのは“アーチを外すとデザイナーのザハ・ハディッド氏に違約金が発生する”“行政や施工主がなんとか巨額ビジネスにしたかったのでは”なんて声も出ている」
施工予定社の大成建設、竹中工務店に見積もりの詳細を聞いたが、両社とも「お答えできません」と回答しなかった。
巨額の血税を費やしてまで「アーチ」を実現してほしい国民はいない。今からでもやめるべきだ。
※週刊ポスト2015年7月10日号