結婚後もコソコソと風俗店通いを続ける男性は少なくないと思われるが、どれだけ気を付けていても、病気にかかるリスクは免れられない。風俗店通いが祟って性病に罹り、それを妻に移して離婚を突きつけられた場合、どうしたらよいか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
結婚して3年目の妻から「性病を移された。離婚する」といわれました。風俗で性病を貰ったことは確かで、妻はそのせいで体を傷つけられたのだから賠償を含め、多額の慰謝料を請求すると譲りません。やはり性病を移すと、妻であろうと賠償しなければいけませんか。性病も離婚理由になるのですか。
【回答】
まず風俗で貰った性病を妻に感染させると離婚の理由になるかですが、裁判離婚が認められるためには、不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復の見込みがない強度の精神病という4つの具体的事由か「婚姻を継続しがたい重大な事由」のいずれかが必要です。
不貞行為とは、相手方配偶者に対する貞操義務違反となる行為です。売春した妻は不貞行為になるとの裁判例があり、私は売春の相手方になることも不貞行為と思いますが、実際の裁判例では買春だけで離婚を認めた例は見当たりません。
民法では4つの具体的な離婚事由の場合、どれかがあっても裁判所が婚姻継続相当と判断するときには、離婚を認めないことになっています。そこで一時の気の迷いで今は反省しているなどの理由で離婚請求を棄却することがあります。
しかし買春の結果、妻が夫への信頼と愛情を失い、婚姻関係継続が困難になれば「婚姻を継続しがたい事由」に当たり、離婚が認められます。
夫の暴力や傷害行為などにより、婚姻関係が破たんした場合も、この「継続しがたい事由」になりますが、性病の感染も傷害であり、風俗での買春行為で貰った性病を感染させられた妻から離婚を求められた場合、よほど上手に謝って許してもらえない限り、離婚は回避できないでしょう。
次に賠償ですが、婚姻前の買春で貰った性病を妻に感染させた事件で、最高裁は売春女性と肉体関係があれば、性病感染がみられるのは往々あることで、結婚すれば配偶者に感染させて、その身体に傷害を与えるであろうことは容易に予想できるため、感染させたことは過失による不法行為であると判断しました。
ご質問の場合も同様で、治療費などの実損の賠償や、精神的苦痛に対する慰謝料の支払い義務を負います。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年7月10日号