埼玉県所沢市で4月から始まった「育休退園制度」が物議をかもしている。第2子が生まれて育休を取ると、保育園に通っている上の子は退園しなければいけないという制度だ。
育休退園制度の導入理由となった待機児童は1990年代から社会問題になり、いまだ深刻なままだ。2014年4月の時点で、保育園の定員は234万人で、待機児童数は2万1371人。徐々に改善されているが、問題解決にはほど遠い。
なぜ、待機児童問題は解決しないのか。まず挙げられる理由は共働き夫婦の増加だ。1986年の男女雇用機会均等法施行以降、経済状況の悪化やライフスタイルの変化などで、働く母親が急増した。
「保育園の定員も増えていますが、共働き世帯の子供の入所希望者がそれを上回る規模で増えています。国は40万人の受け皿を用意すれば2年後に待機児童が解消すると予測していますが、見通しが甘すぎるのでは」(待機児童の問題に詳しいジャーナリストの猪熊弘子さん)
また、保育士不足も理由に挙げられる。厚生労働省は2017年度末までに約7万人分の保育士が不足すると試算している。昨年12月の保育士有効求人倍率は全国平均で2.06倍、東京で5.37倍と圧倒的な売り手市場だ。猪熊さんはその理由として彼らの待遇の悪さを指摘する。
「保育士の平均月収は21万円で、全産業の平均と比べると約9万円も低い。認可外保育所では月給14万円程度のところもあります」(猪熊さん)
給料が低い一方、仕事はハードだ。
「親が働く時間がどんどん長くなるのに応えて、朝7時から夜10時半まで預かる保育園もあるほどです。正規職員の割合もどんどん減っています。長時間勤務で“ブラック企業化”しているところも少なくありません」(猪熊さん)
実際、保育士の資格がありながら保育士として就職しない“潜在保育士”は、全国で70万人以上いるという。
そして、保育園建設場所の確保の困難さも解決を妨げる理由のひとつだ。2014年4月時点で待機児童数が全国で最も多い東京・世田谷区では昨年、地域住民の反対で、認可保育園の開園が遅れるという騒動があった。
「待機児童解消」を掲げる世田谷区の保坂展人区長が言う。
「世田谷区では長い間、子供の数が減る一方でしたが、現在は5才以下の子供が毎年1000人ずつ増えています。区では公務員住宅の跡地などに保育園の建設を進めています。しかし子供の声のない静かな環境が長く続いたので、騒音が心配だという声があがり、事業者が建設を躊躇するケースがあります。近隣住民のかたには粘り強く理解を求めていきたい」
これは世田谷だけの問題ではない、と猪熊さんが言う。
「杉並区や大田区でも、住民の反対で保育園の開園が延期されました。開園法人が行政と共に丁寧に説明して住民の理解を得ないといけません」
※女性セブン2015年7月23日号