「日本国内には、もし万が一アメリカが日本の頭越しにAIIBに参加するようなことがあれば日本は国際社会で孤立する、という懸念があるようだが、それはまったく心配するに及ばない。なぜなら、アメリカがAIIBに参加することは現状では絶対にないからだ」
米財務省の幹部がこう断言する。なぜ米国は、AIIBに対して強い拒否反応を示すのだろうか。
「それはAIIBが中国の国際金融戦略上、極めて重要な役割を担っていることが明らかだからだ。そしてその国際金融戦略がアメリカの国益と真正面からぶつかるのだから、AIIBに参加するはずがない」(前述の米財務省幹部)
中国が推進する国際金融戦略において、とりあえずの目標は、人民元をローカル通貨から国際通貨に格上げさせることにある。
具体的には、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)を構成する通貨に人民元を加えることを意味すると見ていいだろう。SDRはIMF加盟国の外貨準備資産を補完する国際準備資産のことで、現在SDRを構成する国際通貨は、ドル、ユーロ、円、ポンドの4通貨。
「中国サイドの要求としては、その4通貨に人民元も加えろ、というのです。中国は、リーマン・ショック直後から、そうした要求を顕在化させてきたのです」(日本の財務省幹部)
そして中国側の最終的な狙いは、そのSDRそのものをドルに代わる疑似基軸通貨にすることにある。そしてそれは、ドル基軸通貨体制の終焉を意味する。当然アメリカにとっては飲める話ではない。このためアメリカは、一貫して人民元をSDRの構成通貨に加えることに、反対の立場をとってきたのである。
アメリカは、IMF加盟国の中で最大の出資国であると同時に、加盟国中唯一、“拒否権”を持つ国だ。そのアメリカがクビを縦に振らない限り、中国の要求は絶対に通らない。
そこで中国が繰り出した次の一手が、AIIBの設立だったのだ。
「もし仮にAIIBが人民元建ての融資を全面的に展開したならば、世界的に大量の人民元が流通することになり、人民元の実質的な基軸通貨化が進んでいくことになる。とりあえずAIIBは、ドル建て融資のスタイルをとるが、将来的にこれがどうなるかはわからない」(前述の日本財務省幹部)
いよいよ米中通貨戦争が本格化しつつあるようだ。
●文/須田慎一郎(ジャーナリスト)
※SAPIO2015年8月号