待機児童や保育園不足問題に一石を投じるアイディアとして、若手の社会学者、古市憲寿さん(30才)が「保育園の義務教育化」を提唱して話題になっている。古市さんは今年7月、『保育園義務教育化』(小学館)を出版した。古市さんが語る。
「0才から小学校に入るまでの保育園を無償の義務教育にするんです。全員一定の時間ではなく、専業主婦が週1回1時間だけ預けるのでもいい。タイトルでは『保育園義務教育化』という言葉を使いましたが、保育園でも幼稚園でもいいんです。とにかくお母さんと子供を孤立させないことが大事だと思います。
日本社会では、子供を産むと母親は、完全無欠な“聖母”とみなされます。ひとりの女性が子供を産んだ途端、ベビーカーで電車に乗れば周囲から白い眼で見られ、保育園やベビーシッターを利用するとバッシングされます。
しかも女性から女性へのバッシングが多い。“自分もがんばっていたんだから、あなたもがんばりなさいよ”という気持ちでバッシングをするのだと思うのですが、本当の敵はそこではない。その裏側には保育園を充分に作ってこなかった政府がある。
ぼくの専攻する社会学は個人の選択の裏側に社会や政治があることを示します。政治家って本来、20年後のことを考えるものだと思っていたけど、本当にそんな政治家がいない。先送りばかりで危機的状況になっていく。日本がその状態になっているのに、本気にならない政治家にイライラして書いた本です」
小規模認可保育所「おうち保育園」を運営する、認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹代表理事は、義務教育化に賛成する。
「子供が小学校に入れなくて悩む保護者はいないのに、保活があるから仕事を辞めたり出産を控えたりする女性のいる社会は不健全です。保育園を義務教育にすれば、当然、保活ママがいなくなり、待機児童もなくなります」(古市さん)
実際、欧米では義務教育の低年齢化が進んでいる。フランスは3才以上のほぼ全員が無償の保育学校に通い、義務教育化も検討されている。ハンガリーでは2014年以降、3才から義務教育になった。
白梅学園大学学長の汐見稔幸さんが解説する。
「ヨーロッパ諸国では3~4才以降の幼児教育は無償が主流です。ハンガリーのように義務教育になる国はこれから増えていくでしょう」
実現できれば、待機児童解消、保育園不足問題解決以外にもさまざまなメリットがある、と古市さんは言う。
「まず、母親のストレスが減ります。育児はストレスがたまりますから。この国では、子供を第三者に預けて母親が働くことへの抵抗感がまだまだ強い。それが義務教育になれば、『国が言うから仕方がなく預けている』といういいわけを誰もが使えるようになるんです。国が悪者になって、母親のストレスをなくしてあげるべきです」(古市さん)
※女性セブン2015年7月30日・8月6日号