半年前、安倍晋三政権は総選挙で大勝利をあげ、首相側近からは「2020年の東京五輪を安倍首相で迎えられるように総裁任期を延長すべき」という超長期政権論まであがった。
勢威絶頂の安倍首相は「私が最高責任者だ」の号令一下、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認、米国と世界で戦う安保法案成立に走り出した。
政権の重鎮たちも付き従った。国会で自民党推薦を含む3人の憲法学者が「法案は違憲」と指摘しても、菅義偉・官房長官や谷垣禎一・自民党幹事長は自分たちが推薦した学者の意見に謙虚に耳を傾けようとせず、逆に「決めるのは最高裁だ」と無視を決め込んだ。
安倍支持派の若手議員たちも、勉強会で安保法案に批判的なメディアに対し、「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番だ」などと制裁論をぶち上げた。
だが、衆院強行採決をきっかけに安倍内閣の支持率は急落。新聞・テレビの世論調査では「35%」(毎日)など支持率が軒並み10ポイント前後落ち込み、不支持が5割前後に達している。
官邸内では当初、「強行採決で支持率が下がるのは想定の範囲内」(安倍側近)とタカをくくっていた。安倍首相も強行採決のタイミングに合わせて批判が強かった新国立競技場の建設計画を「白紙撤回してゼロベースで見直す」と表明し、国民の“喝采”を期待したが、流れは変わらず、ついには「支持率のために政治をやっているのではない」と開き直った。
自民党内では、9月の総裁選に向けて、新たな動きがある。首相の足元が揺らいでいるのを見て、二階俊博・総務会長を後見人とする野田聖子氏は周辺に「安倍政権の驕りは看過できない。無投票にするわけにはいかないと出馬への意欲を漏らしている」(自民党非主流派議員)という。
野田氏が出馬すれば、安保法案の採決前、「国民の理解が進んでいるとはいえない」と発言した石破茂・地方創生相らの出馬を誘発し、一転、混戦になる可能性が出てくる。
※週刊ポスト2015年8月7日号