安全保障関連法案が16日に衆院を通過。賛成派と反対派の議論が続くなか、当の自衛官の動揺や不安は様々な形で表われている。
防衛大学校では今春、大量の「任官拒否」が出た。卒業生472人のうち、前年度を10人上回る25人が自衛官任官を拒否した。安倍政権下で海外派遣が現実味を帯びてきたここ1年で拒否者が増えており、来年度はさらに増加するのではといわれている。
背景にあるのは自衛隊に対する考え方の変化だ。自衛隊を取材するジャーナリストの田上順唯氏はこう語る。
「自衛隊にはもちろん、国を守るという高い志を持って入隊する人が多い。その一方、近年は『安定した公務員』のように考えて入ってくる人もいる、両極端な状況になっている」
当然後者のような自衛官たちは、法改正によって自身が戦地へ赴く可能性が高まることに不安を隠せない。30代の二等陸曹が胸の内を明かす。
「海外派遣は今のところ志願者も少なくはないが、法案成立で回数が増えれば、今後は強制命令になるかもという思いはあります。『命令されれば行く』と模範解答を口にするのが自衛官ですが、内心は自分も家族も不安でいっぱいです」
より大きな問題は、高い志を持った隊員たちの不安も膨らんでいることだ。
安保法案では国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊の武器使用権限が拡大され、他国部隊への「駆けつけ警護」が解禁される。当然、戦闘に巻き込まれるリスクは増す。そうなると“万が一”を考えてしまうのは自然のことだ。
だが自衛官は、なんと入隊後に“戦死”について教育されることがないという。
「見舞金や共済組合の生命保険金は出るらしいが、それで妻や子供たちが暮らしていけるのかは不透明」(30代三等陸曹)
そのためか、自衛官専門のファイナンシャルプランナー(FP)である佐々木拓也氏のもとには、現職自衛官やその妻からの相談がここ1年で急増した。
「覚悟はしていたつもりだったが、万が一の時にいくら補償されるのかを確認したい、といった相談が増えています」(佐々木氏)
命を懸けて戦地に赴いたとしても「名誉」すら担保されていない。前出の田上氏の指摘。
「防衛省によると、自衛隊は『戦争しない組織』なので『戦死』はありえない。警察官などと同じく『公務中の殉職』扱いになります。防衛功労賞なるものは存在しますが、海外派遣の結果授与される場合の明確な基準はありません」
これで戦場に行ってこいといわれる自衛官には同情を禁じ得ない。
※週刊ポスト2015年8月7日号