【書評】『仮想通貨 技術・法律・制度』岡田仁志・高橋郁夫・山崎重一郎著/東洋経済新報社/3000円+税
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
昨年、仮想通貨のビットコインの交換取引を行なっていたマウントゴックス社で、顧客から預かっていたビットコインが消失する事件が発生した。そのとき「ビットコインも、おしまいだな」と私は思った。しかし、私の予想と異なり、ビットコインは見事に復権を果たした。例えば、楽天はすでに米国の通販サイトでビットコインでの支払いを可能にしているのだ。
私の予想が外れたのは、事件後も世界の金融当局が仮想通貨に対して寛大な態度を採ったことや仮想通貨に強い需要があったことが原因だが、私自身のビットコインに関する知識不足も大きな原因だった。深く知ると、ビットコインは、実によくできた仕組みなのだ。
本書は、仮想通貨の定義、歴史、技術、法的な意味づけ、仮想通貨にまつわる事件などを網羅的に扱っている。本書を読めば、仮想通貨のことが、ほぼ完全に理解できると言ってもよいだろう。
仮想通貨は、貨幣と同じように汎用性と流通性を持っている。つまり何でも買えるし、仮想通貨自身が次々と持ち主を変えていく。しかし、貨幣と決定的に違うのは、政府による裏付けが一切ないことだ。例えば、エディのような電子マネーは、現金との交換で発行され、発行残高の一定割合は、供託が義務付けられている。一方、ビットコインは何の裏付けもない。
ビットコインは、出題される複雑な計算問題を最初に解いた参加者に与えられる。奇抜な発想だが、計算にはコストがかかる。通常の貨幣も最初は金だった。金の採掘にはコストがかかる。だから金が価値を持つ。同じことなのだ。
さらに、ビットコインには管理者もいないし、中央のサーバーもない。あるのは、どこからどこにビットコインが移動したのかという出入りの情報だけだ。それが連なり、参加者のサーバーに残っていく。だから匿名性が高く、資金移動にコストがかからない。近い将来、現金が衰退し、仮想通貨が主役になる日が来るだろう。その前にその仕組みを理解しておくことは、とても重要なことだと思う。
※週刊ポスト2015年8月7日号