カリブ海に浮かぶ島国、キューバ。米フロリダ州の南方約150kmに位置するこの社会主義国家は、「キューバ危機」(1962年)に代表されるように冷戦時代、アメリカの喉元に匕首を突きつける存在だった。
半世紀以上もアメリカとキューバは国交が断絶していたが、2008年に兄のフィデル・カストロ議長の後を継いだラウル・カストロ議長は現実路線に転換し、7月20日、54年ぶりに双方の大使館を再開して国交が回復した。アメリカはキューバに対する経済制裁を緩和し、経済交流が盛んになるとみられる。
直行便が検討されるなど、日本からも今より簡単に渡航できるようになる可能性があるが、そこでキューバの意外な側面ににわかに注目が集まっている。
日本ではほとんど知られていないが、実はキューバは“医学大国”として世界に名を馳せている。アメリカの医療制度を痛烈に批判したマイケル・ムーア監督の『シッコ』で、比較対象として評価されたのがキューバだった。
キューバ憲法の“第9条”では、「医療を受けない患者があってはならない」と定められている。すべての国民が、基本的に無料で医療サービスを受けられるのは、社会主義国ならではだろう。
医師の数は7万6500人で、人口10万人あたり672人。医師の3分の1は、発展途上国への支援や災害支援の医療団として海外に派遣されているので、国内の実数は3分の2になるが、それでも日本の10万人あたり230人という数字に比べればはるかに多い。
海外での医療活動には、国際貢献と外貨獲得という2つの目的があるが、この活動が医学大国としてキューバの名を世界に広めることとなっている。
では、医療水準はどうかというと、一つの指標となる乳幼児死亡率(5歳までの1000人に対する死亡数)は6.2人で、なんとアメリカの6.7人や中国の12.7人よりも低い(日本は2.9人)。平均寿命は78歳で、ラテンアメリカのなかでは突出した数字で、先進国と同等といっていい。
キューバの1人当たりのGDPは約6000ドルで、日本の約3万9000ドルの15%に過ぎず、決して裕福な国ではない。それにもかかわらず、先進国並みの医療をキューバ国民は享受しているのである。
※週刊ポスト2015年8月14日号