7月26日放送の『ヨルタモリ』(フジテレビ系)でタモリが、「子役が誰彼かまわず『お疲れ様です』といって回るのはおかしい」「『お疲れ様』というのは、元来、目上の者が目下の者にいう言葉。これをわかっていないんですね」と力説し、民放連(日本の民間ラジオ・テレビ業者が所属する団体)が子役に「お疲れ様」といわせないよう申し入れをすべきだとまで提言し、波紋を呼んでいる。
「お疲れ様」はいつの間にやら若い世代の中で挨拶のスタンダードになっているが、上から目線の言葉ではないかと違和感を持っている中高年が多く、このタモリの発言に快哉を叫んだ。「お疲れ様です」を巡っては社内で軋轢が生じ「お疲れ様禁止令」が出された広告代理店もあるという。どうしてこんな現象が起きるのか。言語学者の金田一秀穂氏はこう分析する。
「お疲れ様は、いたわりの言葉。力のある者でなければいたわれないので、いわれた側は“上から目線”を感じてしまう。私も学生が授業が終わった後に、『先生、お疲れ様でした』というのには抵抗があります。ただ日本語には、会った時に目上の人に対してきちっと使える、万能の挨拶語がないんです。
だから、『いつもお世話になってます』とか『先日はありがとうございました』とか、場面によって使い分けるしかなかった。『お疲れ様です』が広がったのは、適当な挨拶が他にないというのも大きな要因でしょう」
例えばテレビ業界では、昔は「おはようございます」が万能の挨拶語だったが「夜に『おはようございます』は変だ」ということで、「お疲れ様です」が主流になったという。
その“新スタンダード”に業界の顔であるタモリが苦言を呈したとあって、テレビ業界はざわついている。かつてタモリは、居酒屋の店員が使う「こちら○○になります」という表現を、撲滅しようとしたことで有名だ。
「タモリさんがとくに子役についていったのは、そもそも子供は敬語を使うべきではないからです。子供は『お疲れ様』でなく『こんにちは』といっていればいい。子役の人たちは立派な社会人ではあるが、子供は子供。だからタモリさんには違和感があるんでしょうね。悪気はなくても、その言葉で相手が腹を立てたら逆効果。そのことを若者たちも認識しておくべきでしょう」(金田一氏)
「お疲れ様」の広がりには、時代的背景もある。いまやビジネスも友人関係も「広く薄いつながり」が当たり前になり、上下関係も曖昧になる一方。そんななか、「お疲れ様です」は、どんな相手にも気配りを示そうとする、若者世代にとっての「新しいマナー」ともいえる。
シニア世代も、いずれ「『お疲れ様』といってもらえるだけマシ」(60代男性)という心境になるのかも。
※週刊ポスト2015年8月14日号