8月8日に運行開始となるJR九州の観光列車「或る列車」(大分~日田駅間)。車両から乗務員のカバンまで、すべてのデザインを手掛けたのが水戸岡鋭治氏(68)だ。この他にも「ななつ星in九州」を筆頭に、特急「ゆふいんの森」、特急「A列車で行こう」、「SL人吉」など、斬新で遊び心に満ちた車両デザインを次々と発表する水戸岡氏の「発想の原点」はどこにあるのか。
「デザイナーは芸術家じゃありません。発注する人や使う人、関わる多くの人たちの要望をまとめ上げるのが仕事。バランスを考えながら、どうすれば美しく仕上がるかをギリギリまで考え抜く。だから、どうしても発注する側とケンカになってしまいます(笑い)」(水戸岡氏)
デザインに必要なものは何かと問えば、「整理整頓する能力」だという。雑然とした意見やアイデアに優先順位をつけ、完成までの環境を整えるのが最大の仕事。その思いを理解してもらうために事務所のスタッフには朝8時30分から1時間、全員で室内から外の道路までの掃除を課している。
高校を卒業後、大阪やイタリアでデザイン事務所に勤務し、25歳で独立。41歳でJR九州の車両をデザインし一躍脚光を浴びた。これまでに手掛けた車両のデザインは51。
父親に倣って55歳で引退するつもりだったというが、次のプロジェクトはすでに始まっている。世界初の豪華ヨット旅客船のデザインを任されたのだ。コンセプトは「ひよっこりひょうたん島が浮かぶ」。完成予定の4年後、今度はどんなサプライズを見せてくれるのだろうか。
◆水戸岡鋭治(みとおか・えいじ):1947年岡山県生まれ。岡山県立岡山工業高校工業デザイン科卒業。1972年、ドーンデザイン研究所設立。鉄道デザインのほか、路面電車やバス、駅舎、街づくりなども手掛ける。
撮影■太田真三
※週刊ポスト2015年8月14日号