急いでいる人のためにエスカレーターの片側をあけることは、本当に「マナー」なのだろうか。実はいま危険防止のため、片側をあけずに手すりにつかまろうキャンペーンが始まっている。が、浸透しているとは言い難い。大人力・コラムニストの石原壮一郎氏が考える。
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先日試しに、そこそこ混んでいて左側は埋まっている駅のエスカレーターで、右側にボーッと突っ立ってみました。案の定、後ろからやってきたサラリーマン風のお兄さんに、露骨に舌打ちをされました。よっぽど急いでらしたんですね。すいません。
だけど、全国のJR・私鉄・空港などでは、7月21日からエスカレーターの安全利用を呼びかける「みんなで手すりにつかまろう」キャンペーンを一斉にスタートさせているんです。いつの間にか定着している片側を空ける習慣は「危険な事故につながる場合もある」ということで、エスカレーターでは立ち止りましょうと呼び掛けているんです。
キャンペーンが始まって半月ちょっと経ちましたが、見る限り、効果は上がっていません。東京の駅のエスカレータの右側は相変わらずがら空きで、元気のいい人が駆け上がったり駆け下りたりしています。大阪では、左側ががら空きになっているんでしょうか。
日本で「片側空け」の習慣が始まったのは、1970年に開催された大阪万博の「動く歩道」がきっかけだったとか。当たり前のように普及したのは、1980~90年代以降と言われています。その頃、とくに東京では深い地下鉄駅があちこちにできて、長いエスカレーターが増えたことも影響しているとのこと。
長いあいだ行なわれてきて、いつしか片側を空けるのが「マナー」であり「常識」となっているだけに、変えるのは容易ではありません。しかし、駆け上がったり駆け下りたりすると、けっこう危険なのも確か。お盆の時期、大きな荷物を持っている人がいつもより増えるだけに、さらに注意が必要です。そもそも、エスカレーターで立ち止まる余裕すらない日々を送るというのは、なんだか寂しい状況ではないでしょうか。
日常を安全に過ごすためにも、日本人の生き方を考え直す意味でも、「みんなで手すりにつかまろう」キャンペーンは、ぜひ広がってほしいもの。そのためにどういう作戦が有効なのか、私たちひとりひとりに何ができるのかを考えてみましょう。
キャンペーンといっても、現在のところ目につくのは駅に貼ってあるポスターぐらいです。洗練されてはいますが、おとなしめのタッチで迫力はありません。本気で「片側空け」をなくしたいなら、大人の知恵を絞りつつさらに予算をかけて、もっとインパクトのある作戦を繰り出す必要があります。