「春画はポルノ」。そうしたレッテル貼りにより、日本ではタブーとされた美術展が、史上初めてこの9月に開かれる。会場は東京・文京区にある民間の美術館「永青文庫」。春画をメインに据えた日本美術史上初の試みだ。
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江戸時代の人々の「性の営み」を大胆かつユーモラスに描いた春画。その原型は平安時代から存在したが、江戸時代、版画の普及をきっかけとして庶民の間にも広がった。葛飾北斎、喜多川歌麿など江戸期の著名な絵師のほとんどが春画を制作。海外ではアートとしての評価が高く、ゴッホやモネ、ピカソといった大家に影響を与えている。
ところが、純潔、貞淑を重んじる西洋の性規範が浸透した明治以降の日本では、性愛に関する事柄は秘するものとなり、「春画は猥褻なポルノグラフィ」とされタブーとなった。これまで国内で開かれた展覧会での春画の扱いは小規模かつ限定的で、会場の一部をカーテンで仕切って展示するなど、他の美術作品から“隔離”されることが多かった。
流れを変えたのは2013年秋、ロンドンの大英博物館が開催した展覧会「春画 日本美術における性とたのしみ」だった。春画ばかりを展示した会場には9万人近い人々が押し寄せ、英メディアも絶賛。日本でも巡回展の気運が高まったが、世間からの批判や警察の取り締まりなどを怖れた施設側が二の足を踏み、計画はいずれも頓挫した。
そこで登場したのが細川護煕・元首相だ。同氏は細川家に代々伝わる美術品などの文化財を収集・展示する「永青文庫」での「春画展」開催を決断。記者会見で、「義侠心から開催を引き受けた。春画は代表的な芸術。タブーは破らないといけない」と強調した。
9月19日から始まる同展では、絵師が自らの手で描き出した「肉筆」、色鮮やかな「版画」など計120点が展示される。北斎、歌麿、鈴木春信らの傑作に加え、狩野派の作品やポケットサイズの豆判版画まで揃えている。
※SAPIO2015年9月号