米大統領選で「台風の目」となるドナルド・トランプ氏(69)。支持率は共和党候補者選に出馬した16人中1位、32%にまで上昇している。同氏は米国では知らない人がいないくらいの不動産王だが、筋金入りの反日家でもある。
「どこかの国が日本を攻撃したら我々は助けなければならない。だが、我々が攻撃されても日本は助ける必要がない。それがよい協定だと思えるか?」
8月21日に米アラバマ州で開かれた支持者集会で、共和党の大統領候補選に出馬したトランプ氏は、そう挑発した。それに応えた聴衆は、「ノー!」とこぶしを突き上げた──。ほかにも、1980年代の日米摩擦当時をひきずったかのような発言で、日本叩きを続けてきた「筋金入り」だ。
米国の識者らの予想では、トランプ氏が大統領選で勝つ可能性は低いとみられているが、問題はこのような排外的な気分が米国民の間に広がっていることだ。在米の国際政治アナリスト・伊藤貫氏は、こう分析している。
「過去40年の経済統計によれば、米国人の所得は2倍以上になったが、これはあくまで平均値で、国民の下から70%は経済成長の恩恵を全然受けていない。つまり、超格差社会が生まれていて、近年のアメリカでもっとも貧困化が進んでいるのが高卒レベルのブルーカラーです。トランプ氏はこの層に対し、『日本や中国は善良なアメリカをだまし、不当な利益を上げている。そのせいで君たちは貧しいんだ』と訴え、彼らはこういうわかりやすい主張に乗せられている。それが“トランプ旋風”の実情です」
アメリカは「富の半分を上位1%が握っている」超格差社会で、トランプ氏も当然、上位1%の搾取する側である。しかし、そこから巧みに目をそらさせ、「悪いのは日本や中国だ」と訴え、貧困層から絶大な支持を受けている。
「仮にトランプ氏が落選しても、いまのアメリカには、“第二、第三のトランプ”が出現する土壌ができあがっている。格差社会という“病”を治療しなければ、将来的には政界主流派も、トランプ氏のような主張を無視できなくなる可能性はあります」(伊藤氏)
トランプ氏は、一般大衆の不満を外に向けさせて支持を得るという、まるで中国共産党のような方法論を使って、いまのところ成功している。後に続く者が現われても不思議ではない。
※週刊ポスト2015年9月11日号