『笑っていいとも!』が終わってから、どうしてもこの人のことが気になってしまう。タモリのことだ。『ヨルタモリ』の番組終了発表以降、残念がる声が大きく広がっている。これだけ『ヨルタモリ』が愛された秘密はどこにあるのだろうか? そして、われわれが、タモリの番組を見てしまうのはなぜか? コラムニストのペリー荻野さんが綴る。
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そんなわけで、9月での番組終了が発表された『ヨルタモリ』。最近のフジテレビの中で、深夜帯にも関わらず、平均視聴率が8.6%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)を記録した『ヨルタモリ』をなぜ終わらせるのか。各方面から怒りにも似た、惜しむ声が噴出している。
しかし、考えてみれば最近のフジの番組でこれほどぜいたくな番組は他にないのである。舞台は湯島にあるという静かなバー「ホワイトレインボー」。ママは宮沢りえである。ご近所さんのエッセイストの能町みね子や音楽家大友良英、ヒャダインらが洒落たカクテルなどを飲んでると、そこにゲストがふらりとやってくる。
井上陽水、マツコ・デラックス、桃井かおり、松本幸四郎、三谷幸喜などなど。ものすごく豪華な顔ぶれなのである。そこに現れるタモリは、「岩手のジャズ喫茶マスターの吉原さん」はじめ、工務店の社長や謎の外国人など、毎回、カツラや服装で別人になって登場。ゲストに好き放題な質問を投げかける。デビュー25周年の福山雅治に、「(同じく25周年で先にブレイクした)BEGINは嫌いでしょ?」と聞けるのは、別人タモリ以外にはいない。そして、それをまじめに受けた福山に「嫌いというより、自分に対しての失望が大きかった」と応えさせられるのも、この番組以外にはありえない。
当然のごとくエロトークも出てくるが、これもギリギリ下品になる寸止め言葉のやりとりになる。基準はママが扇子で口を隠しながら笑いをこらえ、時々会話に入ってくる程度。このさじ加減を図りながらのエロは、高度な芸だ。
気が乗れば、ゲストとのセッションも繰り広げられる。ママが大ファンで、店に入ってきた瞬間、薔薇柄の着物姿で「うれしい」とピョンピョン飛び跳ねた甲本ヒロトの回では、フラメンコギタリスト沖仁×甲本×吉原さんタモリのセッションを聞いて、ママは感動のあまり涙を流していた。『ヨルタモリ』が心地いいのは、ざっくばらんに見せながら、別人タモリもゲストもどこかでママを喜ばせたい、笑わせたいという心配り、サービス精神があるからだ。視聴者はその心配りをママ経由で感じ取り、心をくすぐられる。しかもそのサービスを提供しているのは、一流の芸能人。これが心地よくないはずがない。高視聴率もうなずける。
タモリのもうひとつの人気番組『ブラタモリ』では、自ら大好きな鉄道や古地図を基に興味の赴くままにディープな街歩きを続ける。司会をする『ミュージックステーション』『タモリ倶楽部』、進行役の『世にも奇妙な物語』は、長寿番組だ。タモリの強さはどこにあるのか。
それは変わらないことだ。かつてタモリは過激な芸を見せる芸人に「ぼくらのときには、芸人がバンジージャンプするなんてなかったから」と語っていた。「笑いをとる」という言葉が一般化し、誰もがテレビの中で笑いをとろうと必死になっている中、タモリは平然と同じテンションを保ち続けた。
めったに取材を受けないご本人に、私は一度だけインタビューした経験がある。その時、印象的だったのは「反省しない」と言う言葉だ。反省して自分を変える気持ちなどサラサラないという不敵な発言なのか、それとも深いところを見せないカモフラージュなのか。なかなかしっぽはつかませてくれない。でも、それでもいい。視聴者は好きなことをしているタモリを見ているのが、一番楽しいんだから。