4年に1度の祭典・ラグビーW杯が9月18日に開幕する。今大会の日本代表を率いるのは、2003年のW杯で豪州代表の監督として準優勝したエディー・ジョーンズ氏。『ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは「信じること」』(文藝春秋刊)を上梓した生島淳氏が、エディー氏の厳しさについて語る。
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日本代表はW杯に向けて世界にも類を見ないほどの長期合宿を4月から宮崎で行なった。選手が宿泊するシーガイアとグラウンドは目と鼻の先。100%、ラグビーに集中できる環境だ。とはいえ、家族と離れて練習に取り組む選手たちにとって息抜きの時間はほとんどない。
ひとつのクールが終わり、いったん所属チームに帰ったある選手からは「シャバに出てきた気分です(笑い)」と自虐ネタが出るほど。練習は朝6時からということも珍しくない。エディー氏は飲酒に関しては寛容な姿勢を取っているが(「選手がリラックスできるのなら、アルコールには効用があるということです」と語る)、早朝からの練習を考えると、それほどたくさんの量を飲むわけにもいかない。
練習では、日本代表の「肝」となる部分の徹底を図った。特にディフェンス中に「寝たまま」は厳禁。死に体となるからだ。
合宿では1週間ごとにテーマ設定が行なわれるが(このあたりの手法は極めてビジネス的)、ICチップによって選手のパフォーマンスがデータ化され、もっとも数値の低かった選手は、罰としてピンクのビブスを着て練習する羽目になる。「また、高校の部活のようなことをやらされるとは夢にも思わなかった……」と、ある選手は苦笑したほどである。
こうした厳しい練習の先にあるのは、「JAPAN WAY 2015」の確立だ。そのゴールをエディー氏はこう定義する。
「歴史を作れるチャンスは一度だけ」
日本代表としてのプライド、使命感。意気に感じる者たちの集団を作る。その具体的な方法論として挙げられているのが次の3 つの要素だ。
「早いスタート」
「容赦のない、絶え間ない動き」
「リロード=ディフェンスで15人が立った状態」
噛み砕いていえば、相手を上回る早く、速い動きを意識し、それを80分間継続する。「リロード」という言葉は馴染みが薄いかもしれないが、「再装填」という意味で、たとえば一度タックルしたら、すぐさま起き上がり、再び相手の攻撃に備え、チーム全体として「穴」を作らない動きを指す。
これこそ、エディー氏が導き出した勝利の方程式だ。日本人の特性とされる瞬発力、勤勉さを武器とした戦い方を標榜し、最終的にはフィットネスの面で相手を消耗させ、自らのアタックを完遂する。あとは選手がどんな思いでプレーするかだ。
宮崎の合宿、ミーティング・ルームにはこんな言葉があった。
「義を見てせざるは、勇なきなり」
※週刊ポスト2015年9月18日号