NHK朝の連続テレビ小説『まれ』。第24週の週間平均視聴率は20.2%を記録(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。これで週間で20%を超えたのは5回目となった。ようやく持ち直してきた感もあるが、前作の『マッサン』に比べると、国民的なブームを起こしているとは言い難い。いったい、どこが受けなかったのか? コラムニストのペリー荻野さんが分析する。
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いよいよ最終回が近づく朝ドラマ『まれ』。視聴率も関東地区で20%超と健闘しているにも関わらず、私の周囲(特に男性)から「いまいち乗りきれない」との声も多い。その理由はどこにあるのか?
まず、ヒロイン希がこどものころからの夢の仕事が「パティシエ」であること。ご存知、パティシエは現代の女の子たちの憧れの職業のひとつ。2015年の調査によると6~15才の日本の女の子の「なりたい職業ランキング」ナンバーワンは「パティシエ」で16.8%。二位の「先生」8%を大きく引き離した。(アデコグループ調べによる。ちなみに同じ調査で男子の一位はサッカー選手)
もちろん、希の師匠は小日向文世演じる男性パティシエだったし、この仕事が女子専門というわけではないが、パティシエ=女の子の夢というイメージは強く、男性視聴者は乗っかりきれなかった可能性は高い。
そして、もうひとつ。自分探し路線。私は常々、朝ドラマにはふたつの種類があると思っている。ひとつは骨太にどっかりと苦難と戦う物語、もうひとつは時代の空気に流されそうになりながら自分を探す物語。前者の代表は、驚異的な視聴率を記録した『おしん』、近年の作品でいえば『花子とアン』がある。貧しい暮らしから、一途に自分の道をいくヒロイン。震災や戦争などですべてを失ってもたくましく立ち上がる。女の一代記である。
一方、自分探しは現代を舞台にした作品がほとんどだ。物質的には恵まれていても、自分が何をすべきか迷い、戸惑う。その代表は『あまちゃん』だ。思えば、あまちゃんの天野アキ(能年玲奈)は、母の故郷で海女になるといいながら、東京でアイドル活動を始め、再び、海女の世界に戻っていく。家族や友人を巻き込みながら、成長したんだかなんだかよくわからない異色のヒロインだった。それでも、中高年男性視聴者からも多くの支持を得たのは、80年代のアイドル懐かしプレーバックシーンや徹底したパロディ精神、さらには震災にもこのドラマらしく向き合い続けた姿勢があったからだ。
『まれ』にも、かつての名番組『料理の鉄人』を思わせるシーンがあった。有名パティシエふたりが一騎打ちする番組に、師匠が出演。希は助手として参加、本番中、突然、メレンゲを千回泡立てろなどと命じられ、奮闘する。山口馬木也演じる司会者がヨーロッパ貴族のようなくるくる銀髪のカツラで現れたのには笑ってしまったが、この方向で行くなら、もっと突き進んでもよかった。
そして、このドラマで一番自分探しをしているのが、ヒロインではなくその父津村徹(大泉洋)であることは重要だ。どんな仕事も長続きせず、一発逆転を狙って次々と商売を始めようとするが、失敗の連続。長い間失踪中である。また、希のおさななじみの父親三人組(篠井英介、塚地武雄、ガッツ石松)も何かというと、仕事もしないで美容院「サロン・はる」でうだうだとしている。『まれ』の朝ドラマは出勤前や昼休みのランチタイムに見る視聴者も多い。地道に仕事をしている男性視聴者層に徹や三人組の行動はどう映ったか。
思えば、今年は大河ドラマ『花燃ゆ』のヒロイン美和(井上真央)もドラマの中で羊羹やまんじゅうなど甘い物をよく作った。2015年は、スイーツなドラマの年と記憶されることとなるだろう。血糖値が気になる人には厳しい場面が多かったのも事実。乗っかれなかった一番の理由はひょっとしてコレだったのかも?