人の顔よりも大きく誇張され、緻密に、そして大胆に描かれた「交わる性器」──ゴッホやモネ、ピカソなど西洋画家に「ジャポニズム」として大きな影響を与え、海外ではアートとして高い評価を得ながら、母国・日本では長らく封印されてきた春画が、ついに現代日本に甦る。
国内初の「春画展」が9月19日から東京・目白台の永青文庫で開催される。国内外の博物館や個人が所有する130点余りの作品が展示される予定だ。春画に詳しい日本美術史家の早川聞多・国際日本文化研究センター名誉教授が言う。
「春画とは男女の情交の様などを描いた絵のことを指します。豊穣な文化が花開いた江戸時代、春画は当世一の浮世絵師たちによって描かれてきました。今度の春画展にも出展されますが、葛飾北斎や喜多川歌麿などです。単に淫靡なものではなく、芸術作品としての価値も非常に高いのです。
しかし、春画の本は江戸の頃から風俗を乱すものとして、たびたび規制の対象になってきました。明治以降、春画は“わいせつ物”として地下に潜らざるを得なくなり、蒐集や研究は好事家たちの秘かな楽しみになってしまったのです」
以降、今回の展覧会まで、日本では一般の人の目に触れる機会はほとんどなかった。
「かつては女性が嫁ぐ時、母親が“このように夫と仲よくして子孫を繁栄しなさい”という意味を込めて春画をわたす風習がありました。縁起物であり、“性教育のテキスト”でもあったんですね。江戸時代末期、ペリーの黒船が来て日米和親条約を結んだとき、友好のために春画を贈ったこともありました」(早川氏)
武士は災難除けの護符として甲冑の下に忍ばせ、商人も火事を避ける願いを込めて蔵に置く──歴史的、文化的にも春画は実に多用な使われ方をしてきた。もう一つ、春画の大きな魅力といえるのは、その溢れんばかりのユーモアだろう。
有名な葛飾北斎の筆による「裸の女性に吸い付く蛸」の春画。大胆な構図の背景に細かい文字が書き込まれている。これは「書き入れ」といい、大蛸と子蛸が海に潜る海女に恋心を抱き、「チュッチュッ」「こりやァどうするの」「アレェアレェ」と行為に及ぶストーリーが描かれている。
「江戸時代には春画は『笑い絵』とも呼ばれていました。男女の絡み合う人間模様をおもしろおかしく見るツールでもあったんです」(早川氏)
※女性セブン2015年10月1日号