70才を超えるベテラン俳優でありながら、今、話題のドラマに欠かせない存在なのが北大路欣也(72才)だ。厳格な父親役から、まさかの犬役まで硬軟演じわけられる役者はそうはいないだろう。そんな北大路の「埋蔵量のすごさ」についてコラムニストのペリー荻野さんが綴る。
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一年を振り返るのは、まだまだ早いが、おそらく今年、「一番いろいろな役を演じた俳優」のトップは、北大路欣也だろう。ざっと思いつくだけでも、ソフトバンクの犬のお父さんはもちろん、大河ドラマ『花燃ゆ』のお殿様、朝ドラ『マッサン』の作家、『アイムホーム』の父親、『三匹のおっさん2~正義の味方ふたたび~』のおっさん、『刑事七人』の法医学教授、『剣客商売』の老剣客など実に幅広い。
加えて今秋からは、ドラゴンクエストモンスターズスーパーライトCMで、伝説の魔王「竜王」になって登場している。どっしりとしたマント、ギザギザに逆立った髪、貫録のヒゲ、眼光鋭くにらみつけた魔王は、「もしわしの仲間になれば、世界の半分をお前にやろう」と語りだす。半分て。もらっても困るんですけど?と思ってしまう私のようにまったくゲームと縁のない視聴者が見ても、何やらこの魔王がとてつもない存在だということは一目でわかる。さすがだ。
が、本当に「さすがだ」と思うのは、2008年、『天と地と』(テレビ朝日系)で、松岡昌弘演じる上杉謙信が崇めた戦の神、毘沙門天の化身役で、すでに人間を超越した役を演じた経験があること。こんなキャリアの持ち主はなかなかいない。『華麗なる一族』『アイムホーム』など、ここ十年くらいの作品で「俳優北大路欣也」を知った人には、想像もできないかもしれないが、この大御所にはまだまだ埋蔵作品がいっぱいある。
なにしろテレビデビューが、17才だった1960年。ドラマも生放送の時代で、顔のアップを映している最中に衣装を替えたり、クライマックスのいいセリフを言っている最中に放送が終わっていたなんてこともあったという。
70年代には、映画『仁義なき戦い』シリーズでギラギラした役も多かったが、テレビでは刑事ドラマや時代劇にも数多く出演。なぜか、悪と戦う平四郎(北大路)と相棒(山城新伍)の入浴シーンがよくあった『暁に斬る!』、映画界のスター父・市川右太衛門の当たり役を演じた『旗本退屈男』なども印象に残る。
中でも私が好きだったのは、『江戸川乱歩の美女シリーズ』。1985年に亡くなった天知茂の後を引き継いだこのシリーズでは、死んだはずの男が事件の真相を語り出し、「あなただ」と犯人を特定。激怒した犯人に「お前はいったい誰…」と言われると、おもむろに顔の変装メイクをべりべりとはがし、明智小五郎(北大路)が颯爽と登場。このシーンが最大の見せ場だった。CGなし、今風の特殊メイクなし、どう見ても、別の俳優と入れ替わっただけでしょ!とこども心に突っ込みを入れた方も多いかも。思わず「テレビって自由!」と叫びたくなるような名場面の連発だった。
しかし、ここで終わらないのが、北大路欣也遊び心ワールド。2004年、NHK『はんなり菊太郎2』では、自ら志願して変装メイクを施し、ちょい役でカメオ出演をしているのである。私も画面で初めて目撃したときは呆気にとられた。10月からBSプレミアムでこのドラマが再放送される。変装北大路欣也を発見するのも楽しい。