1年間の移動距離は地球10周分。目まぐるしい日々を送りながら、常に爽やかな 笑顔を絶やさず、まるで少年のように稀少な植物を追い求める姿は、『NHKスペシャル』や『情熱大陸』などテレビで映し出されるたびに「勇気をもらった」「感動した」というファンを増やしてきた。
「おれは誰よりも植物が好きだ」と今どきまっすぐに話す西畠清順さんは、「プラントハンター」と呼ばれる。『プラントハンター西畠清順 人の心に植物を植える』(NHK取材班編、小学館)が発売となり、さらに注目を集めている。
風貌は長い髪、無造作な髭と浪人のようなイメージだ。「ひとの心に植物を植える」をテーマとした「そら植物園」の代表で、全国の建築物やイベントの緑化のコンサルタントを担っている。さらに、プラントハンターとはクライアントのニーズに応じて、世界中から植物を探して持ち帰っている。ノンフィクション作家の稲泉連さんが、西畠さんに迫った。
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西畠さんが植物の世界に魅了されたのは、21才のとき。大学を卒業後、父親の勧めで海外を旅していた際、ボルネオ島にあるキナバル山の登山中に「ネペンテス・ラジャ」という名の巨大食虫植物を見た。日本名・オオウツボカズラ。濃い紫色をしたグロテスクで異様な巨大植物が、ジャングルの中で大口を開けて自分を待ち受けるように生えていた。
「こんなスゴイもんが土から生まれてくるんや、って言葉にならない衝撃を受けました。以来、魔法にかかったみたい植物が好きになったんです」
それまで彼は実家の植物の生産卸問屋「花宇」の跡を継ぐつもりはあったが、植物そのものに対してはほとんど何も知らなかった。
「桜と梅の違いもわからず、女の子に『セイジュンは花屋さんでしょ? パキラってかわいいよね』と言われても、そのパキラが何かもわからなかったくらいやった」
だが、ネペンテス・ラジャとの出合いによって、それが変わった。帰国後に「花宇」へ正式に入社すると、猛然と修業を積んだという。「今でもおれの原点は、あのとき自分が感じた驚きの感情なんです」と彼は語る。
「おれが21才で初めてネペンテス・ラジャに会ったように、人が植物の世界に目 覚めるためにはきっかけが必要なんです。こういう都会ではなおさらね。あらゆる桜を一斉に咲かしたり、イベントをやったり、植物園を造ったり。その中で植物ってスゲーっていうあのシンプルな感情を伝えたい」
清順さんは昨年、南米アルゼンチンに生息する「パラボラッチョ」の巨木を、日本へ初めて輸入した。パラボラッチョは瓶のような形をした謎めいた木で、実際に目にすると生命の不可思議さに唖然とさせられるようなユニークさを持つ。この木を日本に持ち帰るまでの冒険は、『NHKスペシャル』で放映され、視聴者に衝撃を与えた。
「パラボラッチョのことを全く知らなかった大勢の人があのドキュメンタリーを見て、“なんてすごい木があるんだ”と思ったとすれば、そのときにはもう頭にあの木が植え付けられているんです。だから、どこかのイベントで実際におれが運んできたパラボラッチョを見て、うわーとなる。植物をみんなの頭の中に植え込んでやりたい。いつもそう思いながら旅をしています」
撮影■小倉雄一郎
※女性セブン2015年10月8日号