今春に生まれたばかりの子供を持つ東京都在住で共働きの30代の男性・A氏が、妻から受けた暴力について恐る恐る語り始めた。
「仕事で朝帰りしたときのことです。妻は出勤の準備をしていたため、私が子供のおむつを取り替えることに。でも、一睡もしていなかったため、一瞬ウトウトしてしまったんです。
するとおむつからウンチがこぼれて“あわわ”と焦っていると、突然、脇腹に鈍い痛みが走りました。妻の強烈な蹴りでした。“いい加減にしろ!! 寝るな!”と激怒する妻に“仕事で寝てないんだから”とは言えず、ただただ“すみません”と土下座して謝ることしかできませんでした」
DVと聞けば、多くの読者が「妻に手を上げる夫」の姿を想像するだろう。しかし、朝日新聞(9月10日付朝刊)でも特集されたように「妻からDV」は急増しているのだ。
同紙に掲載された〈妻の暴力 口閉ざす夫〉という記事では、45歳の自営業の男性が2年にわたり受け続けた妻からの暴力を告白。毎月20万円の生活費を渡しても「稼ぎが悪い」と罵られ、料理をすれば「まずい」、掃除をしても「汚い」と責められた彼は2年に及ぶ裁判の末に離婚したという。
警察庁によれば、DV被害は毎年増え続け、2014年は5万9072件と過去最多を記録した。その中で、男性の被害件数(女性が加害者)は約10%の5971件。割合としては1割だが、問題はその増加率だ。796件だった4年前に比べ、約7.5倍に増えている。家族問題コンサルタント・池内ひろ美氏が増加の原因を説明する。
「昔から妻によるDVはありました。しかし、相談機関などが増えたことでDVが表面化。10年ほど前の日本社会では妻から暴力を振るわれたなどとは、男性は恥ずかしくて訴えられなかった。
仮に誰かに相談しても“男なんだから”とバカにされてしまう風潮があった。また職場に妻からDVを受けているとバレれば“家庭内さえ管理できない”と見なされ出世に響くといった理由で口を閉ざすケースも珍しくありませんでした」
内閣府が2014年度に実施した男女間の暴力に関するアンケートでも、「配偶者からの暴力を相談しなかった」と答えた人は女性の44.9%に対して、男性は75.4%と1人で抱え込む傾向が強い。実際、本誌の取材でも、なかなか口を開こうとしない男性が多かった。
※週刊ポスト2015年10月9日号