経営不振問題が競馬に飛び火した。脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を運営するジンコーポレーションが多額の簿外負債により経営不振に陥っていると雑誌『FACTA』などで報道されたのは、今年5月のこと。
そしてこの9月、同社の代表取締役社長を務める高橋仁氏が所有する競走馬がすべて名義変更されていたのだ(その理由について同社広報担当は「社長個人のことなのでお答えできません」と回答)。
社名に由来する「ミュゼ」がつく馬の活躍は目覚ましかった。高橋氏は馬主資格を取得してわずか4年で日本ダービーに「ミュゼスルタン」と「ミュゼエイリアン」の2頭を送り出したほか、「ミュゼゴースト」が重賞2着となっている。
新馬主は「ヤマイチ」の冠名で知られる坂本肇氏となったが、高橋氏の“消滅”は競馬界に大きな衝撃を与えている。特に関東の厩舎にとって痛手だ。
「高橋氏が所有するほとんどの馬は、関東の厩舎に預けられていました。今後も“稼げる”馬が預けられると見込んでいた関東の厩舎にとって、『ミュゼ』がいなくなったことは『大スポンサー』の消滅を意味しています」(厩舎関係者)
高橋氏の今年度の獲得賞金は約1億3500万円、全国に約2000人いるといわれる個人馬主のなかで39位だった(9月13日時点)ことからも影響の大きさが窺える。その余波はジョッキーにも及んでいる。筆頭が柴田善臣騎手(49)だ。
「日本騎手クラブの会長も務めたことがある関東で人気のベテラン騎手。だが実は日本ダービーで勝利したことがない。叔父の柴田政人氏が1993年に悲願だった日本ダービーで勝つ姿を目の当たりにして以降、本人も日本ダービーへの思いは強い。
加齢や腰痛の不安もあり騎乗依頼は減っていましたが、今年は3年ぶりにミュゼスルタンで日本ダービーに出走しています。しかし、結果は6着に終わっています」(競馬雑誌記者)
日本ダービーは3歳馬しか出られない生涯1度きりのレース。つまり日本ダービーに挑戦するためには、若い馬を継続的に買えるオーナーの力が必要不可欠だったのだが……。脱毛オーナーの抜けた穴は大きい。
※週刊ポスト2015年10月9日号