2017年の世界遺産登録の候補地として注目を集める福岡の玄界灘の孤島・沖ノ島。この島は、切り立った岩肌が沿岸部を覆う周囲約4kmの小さな孤島だ。島の中央部へは、石造りの鳥居をくぐり、狭く急な山道を600mほど登ることになる。標高80m地点の原生林の中に祭祀遺跡である巨岩に取り囲まれた沖津宮の社殿が姿を見せる。
沖ノ島に常駐するのは宗像大社の神職一人だけ。彼らは10日交代で島に祈りを捧げる。寝泊まりするのは港の近くに建つ社務所。毎朝、全裸で浜辺から海に入り、禊(みそぎ)を行なう。それはたとえ雪の降る日でも、暴風雨の日でも必ず繰り返される日課である。その後、白衣に着替え険しい参道を登り、沖津宮社殿で御米や御酒を神前に供え、祝詞をあげる(「日供祭」)。
「誰もいない孤島で自然を感じ、五感で神と向き合う。祭祀本来の姿を呼び戻す、貴重な時間です」(宗像大社・広報) 荘厳なしきたりを守る「神宿る島」では今日もまた、祈りの声が響き渡る。
撮影■阿部伸治
※週刊ポスト2015年10月9日号